トランプの乱暴は目にあまる。
けれど、関税を武器にアメリカ経済を立て直すことには意味があるという主張があります。ニューヨーク・タイムズの保守系コラムニスト、ロス・ドーサットさんが、保守系シンク・タンクの論客オレン・キャスさんとかわした議論は興味深いものでした。アメリカはそこまで追い詰められているのかと(The Case for Giving This Trade War a Chance. Oren Cass argues tariffs are worth it. Hosted by Ross Douthat. April 10, 2025. The New York Times)。
長時間にわたる二人の対談で印象的だったのは、アメリカもまた若者が希望を持てない社会になっているということでした。
キャスさんは、GDPや物質的豊かさをみればアメリカ経済は絶好調かもしれないが、恩恵にあずかっているのは中産階級以上の共働き世帯にすぎないといいます。学歴のない一般労働者は、医療保険も住宅もなく、教育費や十分な食費すらもない。

「われわれの社会がどうなっているか見たいなら、若者を見ればいい。シンクタンクAEIの調査では、25歳から29歳の若者男性の所得は50年前とおなじか、それよりも低くなっている。これが成功した経済、繁栄する社会といえるのか。ここにあるのは停滞でしかない」
格差社会の格差はますます広がっている。
経済構造の変化、産業の空洞化がもたらした結果でもある。
自動車など多くの消費財は、海外から安いすぐれた製品がどんどん入り、アメリカの製造業は衰退する一方だった。輸入品に関税を課し、国内産業を保護してその間に再興させるというのがトランプ政治のもくろみかもしれない。でもそんなことが1年や2年でできるはずはない。空洞化は変わらず、仕事はなく、不景気でひょっとすると経済恐慌が起き市民生活はめちゃめちゃになるかもしれない。
そうなる前に、いきあたりばったりがくり返され、路線変更になるだろうけれど。

アメリカでも日本でも、若者たちはたいへんです。
繁栄の恩恵に浴するのはごく一部で、大部分の若者はエリート路線やキャリアコースに乗ることができない。自由でゆたかな人生は夢のまた夢。そんな社会を変える意欲も手段もないか、もしくは奪われている。
こんな世の中、ぜんぶぶっ壊してしまえとトランプに投票するのでしょう。
それ、上だけ見ているからじゃないか。
降りていく生き方というのもあると、ほんのちょっとでも知ればいいのに。
最初から降りることはできないかもしれない。でもせめて、いつ降りてもいいんだよといってくれる人が身近にいればいいのに。
(2025年4月13日)