予兆があったら

 金銭感覚がおかしくなったら、認知症の前ぶれ。
 クレジットカードの使いすぎや住宅ローンの滞納が目立つようになったら、その数年後に認知症と診断されるかもしれない。こんな調査結果が発表されています(Alzheimer’s Takes a Financial Toll Long Before Diagnosis, Study Finds. May 31, 2024. The New York Times)。

 まあそういうこともあるだろうよ、と思います。でも調査の中心になったのがニューヨーク連邦準備銀行で、対象は250万人分のデータと聞けば、ほお、と思う。ただの研究とはちがって確度は高い。なにしろ準備銀行というのは、日銀の支店みたいなものだから。

 この調査は、アメリカ市民の「クレジットスコア」を調べています。クレジットカードや住宅ローンなど、市民が借金をちゃんと返しているかどうかの記録です。そこでわかったのは、認知症になる人は、診断される何年も前から金遣いのパターンに変化が起きやすいことでした。
 たとえば17.2%の人は、認知症と診断される1年前から、住宅ローンを滞納しがちになる。34.3%の人は、クレジットカードの支払いを滞納しがちになる。そういう滞納の傾向は、診断の5年も前からはじまっている場合が多い。

 ジョージタウン大学の経済学者、C・R・グレセンズ教授は、「この結果はおどろくほど明確なものだ。認知症の診断に向かって、事態が一貫して悪化していることが絵に描いたように表れている」といっています。
 コロラド大学で認知症を研究しているL・H・ニコラス教授は、認知症になる人は「物忘れがひどくなるだけじゃなく、危険に対する許容度が変わってしまう」と指摘する。衝動的な買い物をしたり、危険な投資に乗り出してしまうこともある。詐欺にも引っかかりやすい。

 だから年寄りにはカネを使わせなければいい、というわけにはいきません。
 金銭の問題は、認知症がはっきりする何年も前から現れる。そういう傾向があることを高齢者自身が知っていた方がいいし、家族や関係者もそこに気をつけるしかありません。

 ぼくは自分の父親が認知症でしたが、そうとわかる1,2年前から計算ができなくなったことを覚えています。日常会話に異常はなかったのに、金の計算には異常に時間がかかるようになった。やがてそれ以外の症状も出て、認知症とわかったものです。
 認知症には多様な発症のパターンがあり、金遣いや計算能力だけで予測できるものではありません。でもそれは重要な指標のひとつになる。いちばん大事なのは、何かおかしいと思ったら、本人が「助けてもらう気持ち」を持つことでしょう。
 認知症には、そもそも自分がおかしいという気持ちを持てないという大問題があります。でも日ごろから助けてもらう気持ちを持ちつづけていれば、少しは事情が変わるかもしれません。
(2024年6月6日)