左ヒラメに右カレイ

 ヒラメとカレイ。よく似ているけれど、どうやったら見分けられるか。
 腹を手前にして魚を置いたとき、左側に目(頭)があるのがヒラメ、右側にあるのがカレイです。だから、左ヒラメに右カレイ。
 下にあるのはネットからコピーした著作権フリーの映像で、正確な魚種名はわかりませんが、目が左にあるからヒラメの一種です。

 一方、こちらは右にあるのでカレイ。

 カレイの頭が右にくるなんて、これまで気にしたことはありませんでした。
 でもいわれてみると不思議ですよね。どうしてカレイやヒラメは2つの目が片側に集まっているのか。その不思議を調べている学者がいると聞いて、ぼくは興奮しました。どうでもいいこと(失礼!)を真剣に考えている人がいるなんて、すばらしいじゃありませんか(How Flounder Wound Up With an Epic Side-Eye. June 21, 2024. The New York Times)。

「どうでもいいこと」を研究している学者はたくさんいます。
 そのひとり、ミシガン大学のマット・フリードマン博士は2008年、ヒラメの先祖の化石を発見しました。その先祖ヒラメは、まだ2つの目が片側に寄りきっていなかった。これは生物の進化を考えるうえで重要な発見だったようです。

 ヒラメは進化論をめぐる歴史的な論争のテーマだったと、はじめて知りました。
 ダーウィンが『種の起源』で、生物は自然淘汰によって進化する、それは「小さな変異が蓄積され、大きな変化になる」くり返しだったと主張したのは19世紀なかばです。これを否定する科学者は、ヒラメの目が片方に集まっているのは進化論では説明できないと批判しました。左の目がだんだん右に寄っていく変化が「環境に適応」し、生存に有利だなんてありえないと。

 ヒラメは、進化論に対する有力な反証とされたのです。
 しかし古生物学や遺伝子解析の進化は、進化論の正しさを日々補強してきました。

 メインストリームの科学にとって、ヒラメの目の片寄りは自然の驚異であり、生物多様性の例証のひとつです。多くの人にとっては当たり前のことで、だから何なんだという話にもなりかねません。
 でもアメリカでは、たいへんな話です。かの国では多くの人が進化論を否定し、人間がサルの子孫だなんて神の冒涜だといきり立つ。そういう選挙民がトランプ候補を熱狂的に支持しています。進化論はいまだに多くの場面でタブーで、その話をすると長くなるのでやめるけれど、そういう背景もあるから、なおさらぼくはヒラメの研究に注目しました。
 ヒラメはやっぱり薄造り、すだちのポン酢ともみじおろしがいいけれど。
(2024年6月28日)