本の免税

 デンマークで、本の税金がなくなります。
 いま書籍にかかっている25%のVAT、付加価値税が来年度から撤廃される。もっと本を読んでもらうための政策だというから、さすが福祉国家と思ってしまいます(Facing a ‘Reading Crisis,’ Denmark Wants to Make Books Cheaper. Aug. 21, 2025. The New York Times)。

 しばらく前、アメリカの男たちが本を読まなくなったと書きました(6月30日、8月20日)。デジタル文化の隆盛でだれもがスクリーンに目を奪われている。それはヨーロッパでもおなじで、ことに若い世代の本離れが顕著です。
 2021年の調査によれば、デンマークの小学4年生は25%が読解力が「弱い」とされ、文章の意味を把握したり、批判的な読み方ができないと指摘されています。

コペンハーゲン(デンマーク)

 憂慮した政府は、来年度から書籍にかかっている25%の税金を免除する予算編成を進めています。増大する「読書離れの危機」に対応するためだと、ヤコブ・エンゲルシュミット文科相はいいます。
「本を読むこと、読書に集中できることは、若い世代に与えられるべき恩恵だ。本の価格を下げ、もっと身近なものにすることが危機への対策のひとつになるだろう」
 スマホやパソコンに向き合う人は、本を買うよりストリーミング、動画配信により多くの金を使っているともいわれる。
「本がストリーミングとまともに競争できるようにしたい」

 書籍の免税で、税収は約5千万ドル、75億円ほど減収になる。一方出版社は、免税で本の価格は16から20%下がるだろうという。本が買いやすくなれば、ネット文化、ストリーミングと多少は競争できるかもしれない。

 免税は、ただの人気取り政策ではありません。
 政府の委員会に参加したオーフス大学のマーズ・ローゼンタール・トムセン教授は、免税は出版を活性化する措置のひとつとして検討され、そのほか図書館への支援拡充や、より多くの地域センターを建設するといった措置も検討されたといいます。
「私たちは読書から、よりよき生活や他者への共感などさまざまなものをえる。本を読むということは複雑な思考に向き合うことなのだ」

 免税は、文化を守るという強い意志があってはじめて実現できる政策でしょう。ネット時代にあってなお本を読みたいという、少数派を支える政策でもある。
 本や図書館を大事にすることで、ぼくらは多少とも複雑になる。分断と対立の反対側に向かうことができます。
(2025年9月8日)