岸本聡子さんの名前は、聞いたことがありました。
3年前、東京都の杉並区長になった人です。杉並にいる友人が選挙期間中、ネットで盛んに宣伝していたので、「なんか、よさそうな人だ」と思った記憶があります。
それが今回、「とてもいい人」になった。
たまたま読んだ本に、彼女の「論文」があったからです。

『コモンの「自治」論』という本の1章でした。
斎藤幸平、松本卓也など、気鋭の論者7人がそれぞれの分野から「自治」を論じた刺激的な本です。そこに岸本聡子さんの論文もまじっていた。
学者グループに、どうしてひとり「政治家」がいたのか。
杉並区長という人気者だからではありません。岸本さんはかねて、斎藤幸平さんらの研究グループ「自治研究会」のメンバーだった。自治を研究していたから、それを実践しようと選挙に出た。そして当選した。
すばらしい。でも論文には別のすばらしさがありました。
オランダに住み、ヨーロッパの地方自治にかかわってきた岸本さんは、「地方自治こそが民主主義を再起動させる最重要のカギである」といいます。「自治」とは、暮らしの未来を自分たちで考える行為だともいっている。そうした論点のなかで、ぼくが注目したのは「政治のフェミナイゼーション」でした。
直訳すれば政治の「女性化」だけれど、これはたんに女性議員を増やせばいいというようなことではない。
「どの国においても政治そのものが男性的な「競争」や「対立」という価値観で行われがちですが、「共生」や「協力」「包括」「共有」といった、女性的価値で行うべく、政治や選挙のやり方を根本から変えていこうというのがフェミナイゼーションの意味するところです」

この人の論には芯がある。
こういう政治家、地方自治の旗振り役が、もっと現れてほしい。
そう思いながら、一方でわが身をふり返ります。杉並の友人にはきっといわれるだろう、岸本さんすごいよって、さんざいったのに聞いてなかったでしょ、いまごろわかったの?
ごめんなさい。ネットじゃわからなかった。今回たまたま『コモンの「自治」論』を読み、はじめて岸本さんに出会えたんです。
ネットを見るようになって、ぼくらはわかったような気になることが爆発的に増えた。でもそのほとんどについて、じつはわかってなんかいない。岸本さんの論文を読んで感銘を受けるとともに、自分の情報環境の危うさを思いました。
(2025年8月18日)