格差という遺産

 日本でもアメリカでも、貧富の差は拡大している。地球上の格差は社会に広がっているだけでなく、相続によって未来の世代にも広がっている。
 金持ちの子がそのまま金持ちになるのはおかしい。民主主義を守るために、格差に介入すべきだと経済学者たちがいっています(More than $70tn of inherited wealth over next decade will widen inequality, economists warn. 3 Nov 2025. The Guardian)。

 ノーベル賞を受賞したアメリカの経済学者、ジョセフ・スティグリッツ博士らの専門家グループによれば、世界銀行が定義する顕著な格差がある国は全世界の83%にもおよびます。
 これらの国では、金持ちは投資や利子でさらに金持ちになり、その富は子どもに渡る。相続税の不備もあって、貧富の差は未来の世代に引きつがれます。

 今後10年間に、金持ちが遺産として残す富は70兆ドルにもなる。日本円で1京円、日本の国家予算の100倍という想像もできない額が、金持ち親子に独占されます。格差は社会の流動性や経済の効率化をそこなう。格差の拡大する国はそうでない国にくらべ、民主主義の後退する確率が7倍にも高まる。
 だから、と、スティグリッツ博士らはいいます。
 気候変動に対処するのとおなじように、国連に格差を監視する委員会を設置し、世界規模で拡大する格差に介入しなければならない。

 この専門家報告は、今月22日から開かれるG20、世界主要国サミットのために作成されました。報告書を公表したサミット議長国、南アフリカのラマポーザ大統領は、格差をサミットの議題にしたいといいます。
「不平等は人間の尊厳への裏切りであり、包括的な成長を阻害し、民主主義への脅威だ。不平等に対し、世代を超えて対処しなければならない」

 2000年から2024年にかけて、世界で1%の最富裕層が富の41%を獲得し、富裕層ではない下位50%の人びとには富の1%しか渡っていない。放置すればこの格差はどこまでも拡大する。グローバル資本主義のあり方に、なんらかの介入がなされなければならない。

 介入は一国だけでは進まず、国際機関が介在すれば効果的だと専門家は考えています。そのいい例は国連の障害者権利条約でしょう。日本もあの条約のおかげで障害者の受け入れが進みました。おなじように、国連が主導すれば格差という問題に介入できるかもしれない。
 最大の格差国アメリカは、こうした動きにトランプ政権が背を向けて笑うでしょう。でも立ち止まることはない。
 気候危機とおなじように、ここでもまた世界はアメリカなしで進むしかありません。
(2025年11月5日)