格差のディズニー

 かつてディズニーランドのモットーは、「だれでもVIP」だった。人種、宗教や社会的地位に関係なく、みんなが平等に扱われ、アトラクションを見たければだれもが順番に列に並ばなければならなかった。
 もやはそうではない。金持ちだけがVIPとなり、金の力で順番を通り越している。
 アメリカ社会の格差の拡大は、ディズニーランドまで変えています(Disney and the Decline of America’s Middle Class. By Daniel Currell. Aug. 28, 2025. The New York Times)。

 1955年、最初のディズニーランドがカリフォルニア州にできたとき、4人家族が1日楽しむには30ドルもあれば十分でした。
 それがいまや、4人家族は入場料だけで700ドルになる。おまけにアトラクションを見るたびに何十ドルもかかるから、数日間のディズニーランド滞在は軽く100万円を超すでしょう。

 でもそれは庶民の相場。金持ちはそんなものではありません。
 入場料だけでも2人分で100万円、それにアトラクションの「優先入場権」が1回ごとに10万円にもなる。ディズニー経営の豪華ホテルに泊まれば、170平方メートルのスイート・ルームが1泊43万円もする。
 そういうVIPは特別待遇を受けます。あるVIP親子は、アトラクション「カリブの海賊船」を楽しむのに、一般客が75分待つところをたった4分で優先搭乗できました。一般客が3日間で10のアトラクションを楽しむとき、2日間で16も楽しんでいる。

 こうした富裕層向けの優先料金で、ディズニーは2024年までの5年間に約7億ドル(1千億円)もの余剰収入を上げていたとされます。
 かつてアメリカ中産階級によって支えられたディズニーは、いま富裕層が支えるようになった。ある専門家はいいます。
「ディズニーはいまやアメリカ社会の上位20%のものになった。いや、もっと正直にいえば、10%か5%かな」
 アメリカで、2千万ドル(30億円)以上の資産を持つ家族は1992年、8万8千世帯だった。それが2022年には64万4千世帯になっている。多くの企業とおなじように、ディズニーはこの富裕層に向けて経営されるようになった。

 白雪姫やミッキーマウスは、かつてみんなのものでした。いまそれは、待つことなく1等席に座って見る金持ちの子と、それ以外の、長時間列に並び、後ろのよく見えない席でがまんするしかない子たちに分断されている。
 ウォルト・ディズニーがつくったディスニーランドは、もうありません。
 日本のジブリパークがそんなふうにならないことをひたすら願いましょう。
(2025年9月3日)