泥脳

 AIやSNSを多用する人びとの「脳の腐食」が進んでいるといわれます。
 脳の腐食(ブレイン・ロット、brain rot)、頭が働かなくなって腐ったようになるという比喩です。日本語としては「泥脳」くらいが適当でしょうか(How A.I. and Social Media Contribute to ‘Brain Rot.’ Nov. 6, 2025. The New York Times)。

 近代人のIQ、知能指数はこの100年ずっと上昇してきたけれど、近年低下傾向が見られる、これはAIの影響だとこのブログで書きました(2025年4月21日)。
 これを裏づける秀逸な研究がMIT、マサチューセッツ工科大学から発表されています。

 MITのナタリヤ・コスミナ博士は、AIが学生たちの脳にどう影響するかを調べてきました。
 この研究で博士は、学生たちを3つのグループに分け論文を書かせています。
 第1のグループは、チャットGPTと呼ばれるAIを使って書く。第2のグループは、グーグルだけが使える。第3のグループは、どちらも使わず自分の頭だけで論文を書きます。学生たちの脳は、脳波計で活動状況を計測されました。

 そこでわかったのは、チャットGPTを使ったグループは脳の活動レベルがもっとも低かったことです。これはあらかじめ予想されたことでした。驚くべきは、その後です。
 学生たちは論文を書き終えた1分後、論文を見ずに、何を書いたか思い出すよう求められました。
 チャットGPTを使った学生は、ほとんど中身を思い出せなかった。グーグルを使ったグループは、あるていど思い出せる。もっともよかったのは自分の頭だけで文章を書いたグループです。文章全体をほぼ暗唱できた学生もいました。

 チャットGPTのようなAIを使った文章は、作った本人も覚えていないとコスミナ博士はいいます。
「1分後には覚えていない。それ、自分が書いたんじゃないってことでしょ」

 自分の頭で論文を書くとき、人はいろいろなことがらを頭のなかに思い起こし、何がどう関連するか複雑に考えます。思考はかぎりなく展開され、困ったり悩んだり、詰まったりハッとひらめいたりしながら、ことばに、文章になっていく。その過程で、脳は、人間の思考力は鍛えられます。
 AIはその過程をすべて省いてしまう。人間の脳を働かせない。働かない脳は弱って沈滞し、泥のようになっていく。
 SNSもまた、おなじような傾向をもたらすと研究者は見ています。
 それはAIの活用なのか、AIに支配されることなのか、どちらなのでしょうか。
(2025年11月24日)