カリフォルニア州の山火事は激甚で、1万2千戸が消失、数十人の死者が出ています。
アメリカのような先進国で、なぜこんな惨事が起きるのか。指摘されるのは消防士や消火用水など消防インフラの不足です。背景には、防災に税金を使うことへの強い抵抗がある。自由の国アメリカが、自由の代償に抱える病理です。
山火事は過去に何度もくり返し発生している。温暖化で大規模になるとわかっているのに、対策を取っていない。人災の面が強いけれど、ここにきて山火事をめぐる奇妙な論争が起きています(‘Will Pay Any Amount:’ Private Firefighters Are in Demand in L.A. Jan. 12, 2025. The New York Times)。
「私設消防団」をめぐる論争です。
今回の山火事では私設消防団が出動し、燃えずにすんだ住宅やショッピングセンターがありました。ところがこの私設消防団、雇うのに1日50万円から百数十万円もかかる。おかげで自宅が燃えなかった大富豪がいる一方、周辺の家は全焼というケースがいくつも出てきました。
これ、金持ちは有利という単純な話ではありません。
私設消防団なんてものがはびこったら、消防インフラはいつまでたっても貧弱なまま放置されてしまう。火事は、消防は、社会全体で取り組むべき課題ではないのかというのが論争の焦点です。
私設消防団は2018年ごろから目につくようになりました。
この年、ロサンゼルスで山火事があり、有名テレビタレントが私設消防団で助かった話が伝わったからです。それ以来、私設消防団に目を向ける富豪が増えました。
同時にトラブルも増えた。カリフォルニア州は法律を作り、私設消防団は火事現場で自治体の消防に協力するよう義務づけました。消防車そっくりの車両を使ってはならないとか、緊急サイレンは禁止、公共の防火用水を使ってはならないなどと規制している。
規制はされても、私設消防団は役に立つことが今回また実証されました。
アメリカにはいま全国で300の私設消防団、消火請負企業があります。その多くが自治体と契約し、要員を派遣している。自治体も、消防企業に頼っているわけです。
しかし自治体ではなく、個人や私企業と契約するものも多い。それはやはり高収入だからでしょう。防火用水を満載したタンク車や放水車からなる20人の消火チームは1日1万ドル、160万円にもなる。それが何日にもなると富豪でなければ雇えません。それでも需要はなくならない。
貧乏人は焼け出され、金持ちは無傷で残る。それでいいのかと、疑問の声は強い。
トランプのアメリカでは、こうした傾向がさらに拡大されるでしょう。
(2025年1月13日)