人間の知的能力が落ちている。AIのせいではないか。
脳科学をめぐる議論は誇張が多いけれど、これはあるだろうなと思います(‘Don’t ask what AI can do for us, ask what it is doing to us’: are ChatGPT and co harming human intelligence? 19 Apr 2025. The Guradian)。
議論の起点は、「フリン効果」です。
フリン効果というのは、人間の知能が1930年以来ずっと上昇してきたと主張する概念で、哲学者のジェームス・フリン博士が提唱しました。多くの研究がこれを裏づけている。人類は全体としてIQテストの点数が上がってきたということです。
ところが、最近この傾向が逆転している。フリン博士自身の研究でも、1980年から2008年のあいだに、イギリスの14歳の子どものIQは2ポイント以上も低下しました。

原因は単純ではない。けれどパソコン、スマホ、AIの影響は無視できないと多くの認知学者が考えています。
もっとも懸念されるのが、クリティカル・シンキング、批判的思考とよばれる分野の脳活動が弱っているという指摘です。スイスのビジネススクールの研究ではAIを使う人ほど批判的思考力が落ちていて、その傾向はことに若者で著しい。マイクロソフト社などの研究でも、仕事でAIを使うプロフェッショナルの批判的思考力は低下しています。AIユーザーのひとりがいいました。
「ときどき自分自身は何も学んでいない、達成していないと感じる。こんなにAIに依存していると、AIがないと何も問題が解決できなくなってしまう」

スマホやパソコンがあれば、いまは誰でもほとんどのことがかんたんにわかり、文章を書いたり絵や写真を作ることもできます。恩恵ははかりしれないけれど、失うものも大きい。AIに任せてしまうと私たちは思考を鍛えなくなる。運動しないと身体がなまるのとおなじように、頭も弱るのではないか。
コーネル大学の心理学者、ロバート・スターンバーグさんはいいます。
「AIの登場で、人間の創造力や知能はこれから低下するという人がいるけれど、そうではない。それはすでに起きている現実だ」
どうすればいいか。スイスのビジネススクールの専門家はいいます。
「われわれがもっと人間的になることだ。批判的思考、直感をみがくこと。そこにこそ人間の役割があるのだから」
車に乗るようになって足腰が弱くなったのとおなじように、AIで人間の頭は弱くなっている。そのうち、頭をトレーニングするジムなんてのができるんでしょうか。
(2025年4月21日)