訂正します

 2週間前、ウクライナ軍がロシアに対して「主力部隊を投入」、「これから数週間で戦争は大きく変わる」だろうと書きました(7月27日)。その後ウクライナ軍に目立った動きはなく、「戦争は大きく変わって」はいない。ぼくは誤報を書いたことになりました。訂正します。
 もとはといえばニューヨーク・タイムズの「誤報」です。でも、言い訳のようだけれどこれを「誤報」といい切ることもできないのではないか。実際に起きたのはウクライナ軍のフェイント、陽動作戦だったのかもしれない。それがロシアだけでなくアメリカも、またメディアまでだましたのだとすれば、ウクライナもなかなかの役者だということになります。

ウクライナ東部の村での戦闘
(7月28日 ウクライナ軍発表映像から)

 ニューヨーク・タイムズは早い段階で「誤報」を修正しました。
 端緒となった7月26日の報道では、米国防総省の2人の高官の「数千人規模のウクライナ軍がロシア軍への攻撃をはじめた」というコメントを伝えている。でも半日後にはトーンを落とし、反攻は千人規模かもといい、高官のいうことが「前回の発言からやや後退した」と、ちょっといいわけっぽく指摘しています(Ukraine’s Stepped-Up Assault Grinds Forward, but Scale Is Unclear. July 27, 2023. The New York Times)。

 当時はロシア軍の現地司令官も、「南部で大規模な攻撃と激しい戦闘が起きている」と発表していましたから、それにも引きずられたのでしょう。
 でもワシントン・ポストやウォール・ストリート・ジャーナルはそうした情報に引きずられていない。南部でちょっとした戦闘があると伝えただけでした。だからジャーナリストの目から見れば、やっぱりタイムズ紙は情報の筋を読みちがえたことになる。
 大規模な反攻は起きなかった。
 ではあれは何だったのか。誤報か、陽動作戦か、国防総省高官の“勇み足発言”だったのか。ただその後、南部で村がひとつ奪還されたとの報道があったから、何らかの動きがあったことは事実でしょう。しかしそれは「主力部隊が動き出した」ようなものではなかった。

 それから2週間、ウクライナ情報はぱったり途絶えています。
 メディアの表層から戦争が消えてしまった。でも現実には毎日絶えることなく各地で激しい砲撃がつづき、多くのウクライナ兵が死亡している。ドローンやミサイルが飛び交って民間人の死者も増え、戦争の悲惨はつづいています。
 ニューヨーク・タイムズには今月7日、別の現地報道がありました。そこでウクライナ軍の大隊長が、反攻作戦への西側の過剰な期待に釘をさし、コメントしています。
「これは短距離走じゃない、マラソンだ」
 戦争は、ますます長引く気配を見せています。
(2023年8月11日)