辞めて名をなす

 大統領選挙から離脱したバイデンさんを、ぼくはほめたい。
 ここまで戦ってきたのに、いまさらやめるなんて残念至極でしょう。でも本人の思いとは裏腹に、選挙民はバイデンさんから離れている。このままでは共和党のトランプ候補に勝てない。3週間逡巡し、バイデンさんは離脱を決めました。
 みごとな決断です。

「勇気ある選択」とニューヨーク・タイムズの社説はいいました。
「バイデン大統領は、トランプ候補が決してしなかったことをした。自分のプライドと野望ではなく、国益を優先したことだ」(Biden Made a Courageous Choice. Democrats Must Seize the Opportunity. July 21, 2024. The New York Times)。
 国益とは、民主主義を守ること。
 トランプ元大統領が再選されれば、アメリカの民主主義は危機を迎える。そうならないよう、民主党がせいいっぱい戦えるよう、バイデン大統領は自分自身の思いを封印しました。

 大統領選挙は残り100日あまり、民主党は前例のない混乱を迎えます。
 バイデンさんは後継候補にカマラ・ハリス副大統領を推薦したけれど、すんなり決まるかどうかわからない。新しい候補者は公開の討議で決めるべきだという声もある。選考過程そのものが民主的であれば、「トランプ的なもの」への明確な対抗軸になる。

 ハリス副大統領が後継候補になっても、トランプ候補に勝てる保証はありません。すでに優勢に立ったトランプ候補に追いつくのは容易ではない。女性で有色人種のハリスさんに、トランプ候補は政策論争ではなく、ネット上のののしりあいのように徹底的な個人攻撃を加えるでしょう。それをトランプ支持者が喝采し、団結をさらに固める。

カマラ・ハリス副大統領
(ホワイトハウス・サイトから)

 民主党の先行きは厳しいけれど、多くの有権者は「バイデン退場」に新鮮さを感じているはずです。コラムニストのニコラス・クリストフさんは書いている。
「バイデンの決定は、新しい世代への継承を進めるだろう。1961年、ジョン・F・ケネディは、松明(たいまつ)は新しい世代に引き継がれたと宣言した。1993年、ビル・クリントンはベビーブーマーの時代だといった。それから30年、松明はさらに次の世代に引き継がれるだろう」
 新しい世代が出てくるアメリカの政治には、まだ希望があります。

 81歳のバイデンさんは、ぼくよりちょっと上だけれど、ほぼおなじ世代、だからわかる。苦渋の決断だったろうなと。でも、ぼくら世代はもう先頭に立つべきではない。新しい世代を支える役割に徹すべきです。そういうロールモデルを演じて、つづく世代に希望を与えたたバイデンさんはえらい。
 あなたは「降りた」ことで、ほんとうの大統領になりました。
(2024年7月23日)