ことしのことばは「オーセンティック」(authentic)だそうです。
メリアム・ウェブスター、アメリカ最大の辞書出版社によれば(Authentic: Merriam-Webster’s word of the year. November 27, 2023. BBC)。
オーセンティックは、ネット上の検索でことし「顕著な増加」が見られたことばであり、それが注目された元には「AI(人工頭脳)についての記述や会話、有名人の動向、身元、ソーシャルメディア」への興味があると、ウェブスター社はいいます。
日本でも外来語として使われるオーセンティックは、本物とか、正しい、偽物ではないという意味がある。ケンブリッジ辞書(Cambridge Dictionary)は用例として、「オーセンティックな1920年代のドレス」や「オーセンティックなイタリア料理」をあげています。
なんでこんなことばが注目度をあげたのか。
ウェブスター社は、オーセンティックというのはもともとは肯定的な意味があるけれど、何がほんとで何が嘘か、あちこちで境界がぼやけてきたので、あらためて調べる人が多くなったと見ています。何がオーセンティックか、何がそうでないか、世の中わけがわからなくなってきたということでしょう。
AIがもたらした社会現象でしょう。
AIを悪用する人たちは、いまやあらゆる文章を改ざんし、いかにも本物らしい偽物を作って広くネットに流せるようになった。それにだまされる人たちがたくさんいます。文章だけでなく写真もビデオもイラストも、個人の声ですらかんたんに改ざんし、そっくりの偽物が出回るようになった。ときには専門家でも見破ることはむずかしい。
ことし、オーセンティックについで注目されたことばのひとつが「ディープ・フェイク」でした。かんたんには見破れないフェイクです。年内は解散しないといっている岸田さんに、「解散する」とフェイクの声でいわせるのはかんたんになりました。
そういえば、去年のことばは「ガスライティング」(gaslighting)でしたね。
ことば巧みに人を誘導し、まちがった認識を抱かせること。「お前はダメ人間だ、消えてしまえ」というような。「先祖の霊がたたっている」なんていうのもあります。
何が本物か、何がそうでないのか、見分けることがむずかしくなっている。自分は大丈夫と思っていてもかんたんにだまされてしまう。自分はまちがうことをわきまえていなければなりません。つまり、ソクラテスにもどれということではないでしょうか。
私は、自分が知らないということを知っている。
フェイクにだまされないようにとおびえる以前に、まず自分はフェイクを知らないのだと知っていることが大事です。
(2023年12月1日)