独裁体制の勝利

 プーチンが停戦へのシグナルを送っている。
 23日付のニューヨーク・タイムズの報道が波紋を呼んでいます。報道から1週間、世界中の指導者の多くがこの記事で現状認識を更新したでしょう。さすがタイムズと思わせる報道でした(Putin Quietly Signals He Is Open to a Cease-Fire in Ukraine. Dec. 23, 2023. The New York Times)。

 長文の記事をぼくが勝手に要約すると、ロシア、アメリカ、そしてヨーロッパの複数の政府高官、外交関係者などの取材から、ニューヨーク・タイムズはプーチン大統領がウクライナでの戦争で何らかの「取り引き」をするサインを出しているといっています。
 核心にあるのは、プーチン大統領の腹のうちを示すとされる次の記述でしょう。
・・・ロシア政府の元高官のひとりがニューヨーク・タイムズに、「彼はいまの地点で止まりたいと考えている」と語った。それがクレムリンの伝えたいことなのだと・・・

 いまの戦線で停戦しようということでしょう。ロシアはすでにウクライナの国土の2割を占領したから、ここらで手を打ってやる、という意味でもある。タイムズの記事にはこうもありました。
・・・プーチン大統領は表向き、戦争をつづける姿勢を堅持している。けれどことし9月以来、複数の仲介者を通して、取り引きへのサインを送りはじめているとロシア政府の高官二人がいっている。またアメリカ政府高官によれば、プーチン大統領は去年秋にも停戦への感触を人を介して伝えていたことが、今回はじめて明らかになった・・・
 複数のチャンネルで、微妙な「取り引き」のニュアンスが示されているということでしょう。

 ぼくの推測ですが、たぶんサインは去年から出ていた。でもアメリカ政府が反応しないので、クレムリンはメディアを使うことにした。人を介してニューヨーク・タイムズに「クレムリンの意向」をもらしたのではないか。それを受けてタイムズは米政府、欧州筋、ロシア外交筋を丹念にあたり、記事にまとめあげたのではないか。

(Credit: manhhai, Openverse)

 とはいえ、これでただちに停戦交渉がはじまるはずはない。
 ロシアによるこれだけの破壊と殺戮のあとで、ウクライナが停戦に応じることはできないからです。少なくともいまは。しかしアメリカの軍事援助は先細りで、武器弾薬が足りないウクライナ軍はロシア軍の前でじりじりと後退を迫られている。このままではいつか、どこかの時点で「耐えがたきを耐え、忍びがたきを忍ぶ」道を見つめなければならない。

 プーチン独裁体制、軍事力の勝利が、ぼんやりとだけれど見えはじめました。
 せめてぼくらが目を向けるべきは、将来ロシアがウクライナに対し、第二の戦争をはじめるのをどうすれば防げるかでしょう。
(2023年12月29日)