このままでは年金制度は崩壊する。
それは日本もアメリカもおなじでしょう。日本は手をこまねいているだけ。一方アメリカでは年金の支給年齢を遅らせようという、大胆な議論が国会議員のなかから出ています。もちろんすぐ実現できるはずもないし、そんな提案をしたら選挙で負ける。けれどそういう議論が起きていることは驚きです。社会保障っていったいどうすればいいのか、考えてしまいます(Democrats seize on a GOP budget proposal that would raise Social Security retirement age. March 21, 2024. The Washington Post)。
年金の支給開始年齢を遅らせる。
社会保障の根幹を揺るがす議論は、共和党議員の8割を擁する有力政策グループ、RSC(Republican Study Committee)がまとめた「アメリカを救う健全財政」というタイトルの来年度予算案から出ています。そこにこんな記述がありました。
「平均年齢の伸びに応じるために、将来の退職年齢についてもある程度の調整を行うこと」
退職年齢、すなわち年金の支給開始年齢は引き上げ、年金の支給を遅らせなければならないという意味です。
高齢化と少子化が同時に進む社会で、いまの年金制度は維持できないと警鐘を発している。
この案にさっそく飛びついたのは民主党でした。
支給年齢を遅らせるなんて、共和党がいかに国民のことを考えていないかの証拠だと、格好の攻撃材料にしている。その民主党も、ではどうすればいいかの代案はない。RSCのケヴィン・ハーン議長は、共和党の提案は連邦予算を均衡のとれたものにすると主張します。
「バイデン大統領は破産状態を認めようとしない。それはこの問題に対処しようとする議会の努力をないがしろにするものだ」
いまの年金制度は、まだ若者がたくさんいて高齢者が少数派だったころにできました。人口構成はこの半世紀で逆転しています。多数の老人を支えるために少数の若者が過剰な負担を負うのは、社会正義に反するという議論も出ている。でも増税はできない。だから支給年齢を遅らせるしかないというのが、せいいっぱいの妥協案でしょう。
年金支給を2年遅らせたフランスでは去年、激しいデモや暴動が起きました。アメリカだったら暴徒が議会を襲撃するかもしれない。そういう危険をかえりみず共和党が大胆な議論を起こしたのは、反福祉、小さな政府をとなえる党の戦略でもある。しかしあえて火中の栗を拾う、勇気ある政治姿勢ともいえる。
そういう勇気がない日本は、国債を乱発し、負担を将来世代に先送りしていま。いつ破綻するのか。不安だし、不穏でもあります。
(2024年4月9日)