仲間の責任を問う

 アメリカの日系社会のなかに、論争が起きている。
 パレスチナ人を虐殺しているイスラエルはひどい、われわれはユダヤ人と縁を切るべきだと若者グループが声を上げているそうです。
 意外だったけれど、論争の裏には少数派を迫害してきたアメリカ社会と、そのもとでの日系とユダヤ系の連帯の歴史があると知りました。いまその連帯を、若者たちが正義の名のもとに見直そうとしています(War in Gaza Causes Surprising Rift Within Japanese American Group. April 18, 2024. The New York Times)。

 論争が起きているのはアメリカの歴史ある市民団体のひとつ、JACL、日系アメリカ市民同盟です。
 このなかの若者グループが12月、360人の連名で執行部あてに公開書簡を出しました。彼らはイスラエルがガザで3万3千人以上のパレスチナ人を殺害している、これは民族虐殺だなどと糾弾し、即時停戦とともに、JACLが、AJC(アメリカユダヤ人委員会)など有力ユダヤ系組織との関係を断ち切るよう求めています。

JACL(日系アメリカ市民同盟)本部
(サンフランシスコ、Credit: HaeB, Openverse)

 そもそもなぜ、日系とユダヤ系市民組織がつながっているのか?
 これは第二次大戦中、アメリカで行われた日系人の強制収容がからんでいます。当時、日系アメリカ人の多くはアメリカの市民権を持っていたにもかかわらず、12万人が強制収容所に送られました。戦後、名誉回復と補償を求めた日系人に対して、アメリカ社会は冷たかった。そのなかで唯一、ユダヤ人団体だけが日系の主張を支持してくれたそうです。おかげで彼らは名誉を回復し、補償金も獲得できた。それ以来、日系組織はユダヤ系組織と友好関係にあります。

強制収容に出頭する日系人
(1942年サンフランシスコ、Credit: Openverse)

 公開書簡の起草者のひとり、リキ・エジマさん(26歳)はいいます。
「有効は大事だが、仲間であってもしていることの責任は問われなければならない」
 JACL執行部がエジマさんたちの声に応じる気配はいまのところありません。日系組織がこの夏の大会でイスラエルを非難し、ユダヤ系との関係断絶にいたることはないでしょう。

 若者たちの上げている声は、まだ大きくはない。けれどガザの戦乱は、イスラエル、パレスチナなどの当事者を超えて、日系社会に波風を立てるまでになりました。
 アメリカではいま、大学でガザの戦乱に対する抗議行動があいついでいます。コロンビア大学ではキャンパスを占拠した学生たちのテント村が警官隊に排除され、それがさらなる抗議行動を呼び起こしている。60年代のベトナム反戦運動を思い出します。あれほどの激しさはなく、市民の支持もそこまで広がってはいないけれど。
 ぼくらはイスラエル国とユダヤ人をおなじものとして論じることはできません。ガザは単純な問題ではないと認識しつつ、ぼくは日系若者たちの声に耳を傾けたい。
(2024年4月25日)