去年は、人類最良の年だった。
こんなことをいうと不謹慎と非難されるかもしれない。ガザでどれほどの市民が死んだか、スーダンで最悪の虐殺が行われ、ウクライナで罪もない無数の人々がロシアの爆撃で命を奪われたか、などを思えば。
けれど、見方を変えれば80億人がすむ地球の別の姿が見えてくると、コラムニストのニコラス・クリストフさんはいいます。毎日のニュースを見るだけではなく、別の見方をするならば(Even This Year Is the Best Time Ever to Be Alive. By Nicholas Kristof. Jan. 18, 2025. The New York Times)。
クリストフさんがまず指摘するのは、子どもの死亡率の低下です。
人類史上、子どもの大半は死んでいた。1950年の時点でもまだ、子どもの4分の1がおとなになる前に死んでいる。それが2024年の国連推計では、5歳以前に死んだ子どもは世界で3.6%にまで減りました。これは史上最高の記録です。
貧困もまた、世界規模で減っている。
貧困はかつて大多数の現実でした。それが貧困の最低レベルとされる1日2.15ドル(337円)以下で暮らす人は、2024年に8.5%まで減少している。この貧困レベルから、毎日3万人もの人が抜け出している。
子どもの死亡率と貧困はことしさらに改善されるでしょう。
クリストフさんはこのように指摘して、子どもの死亡率や貧困、識字率という点で去年は最良の年だったといいます。
コラムニストといっても書斎にこもっているのではなく、しょっちゅうアフリカの現場に飛びこんでいる「現場の人」の視点でしょう。
もちろんクリストフさんは最悪の面も忘れてはいない。
あいつぐ戦争と虐殺と全体主義の隆盛、おまけにトランプ登場。なんて救いのない世界か。けれど、だからこそ1年のはじめに1日くらい、この世界の最良の部分に目を向けてもいい。そのほかのほとんどの日をブルーな気持ちで過ごさなくてはならないとしても。
それをパースペクティブ、奥行きということばでクリストフさんはいっていました。
ものごとを奥行きのなかに置いて見る。多面的に見る、複雑に見る、メディアのニュースからではなく、現場から、自分の目で見てみる。そこから見える子ども死亡率の低下。一抹の光。
トランプ大統領の就任式などより、そんなところに目を向けてみたらどうだろうとクリストフさんはいいたいようです。
(2025年1月20日)