精神科の薬をどう減らすか、やめるか。
この問題をめぐって患者、精神科、政治、三者の“きしみ”がはじまっています(Top Psychiatrists Call for a Greater Focus on Ceasing Medication. By Ellen Barry. May 1, 2026. The New York Times)。
発端はJAMA、アメリカ医師会雑誌オンライン版に載ったガイドラインでした。
精神科の薬を「どう出すか」ではなく、「どうやめるか」についての勧告です。米精神科投薬学会(ASCP)の著名な精神科医45人が作成し、「向精神薬の断薬に向けた勧告」というタイトルでした。

アメリカでは近年、精神科の薬をいかに断薬、減薬するかが活発に議論されている。今回出されたガイドラインは、こうした議論のなかで出てきた指針でした。
患者団体「抗うつ薬生存者」(Surviving Antidepressants)のアデレ・フレイマーさんは、遅きに失したけれど、有意義だといっている。
「開かずの箱が、いま開いたんです」
精神科が、これまで避けてきた議論にようやく目を向けたというのでしょう。

ガイドラインは、基本的には慎重路線です。
断薬を患者が勝手に進めるのは危険であり、医師の監督のもとに行うべきことが強調される。向精神薬は断薬、減薬できることもあれば、できないこともある。
良心的な精神科医はこれまでも減薬、断薬に努めてきた。だのになぜ、いまあらためて文書にしたのか。ASCPのアニタ・クレイトン会長はいいます。
「議論を、自分たちの手に取りもどすために」

背景には、トランプ政権で保健行政を進めるR・ケネディ保険福祉長官らの言動があります。長官は去年、抗うつ剤の使用を減らすのが自分の使命だといった。抗うつ剤は麻薬より離脱がむずかしく、各地で頻発する銃乱射事件の原因でもあると、議会証言で根拠なく主張しています。今後、SSRIと呼ばれる抗うつ剤を規制する方向に向かうでしょう。それを保守右翼が盛りたてている。
こうした議論を、政治家ではなく精神科医の手に取りもどしたいとして出てきたのが、今回のガイドラインでした。
精神科は、医療のなかでもっとも政治に左右される分野のひとつです。社会がゆがめば精神科もゆがむ。今回のガイドラインを生み出したのは、つまりはアメリカ社会のゆがみだったということでしょうか。
(2026年5月4日)
