間に合うかな

 やせ薬の快進撃がつづいています。
 商品名オゼンピックやウゴービなど、GLP-1受容体拮抗薬とよばれる一群の薬は、もともとは糖尿病の薬でした。それが体重を減らすのに有効とわかり、“やせ薬”としてアメリカでは700万人が使うブームになっています。
 このGLP-1、腎臓病の治療薬としても承認され、依存症や神経、精神疾患にも効果があるとされる。さらにはアルツハイマー病にも効くといわれるようになりました(Ozempic May Protect Against Alzheimer’s. Jan. 31, 2025. The New York Times)。

GLP-1拮抗薬のひとつ「オゼンピック」
(Credit: chemist4u, Openverse)

 すでにGLP-1薬を使っている糖尿病患者を調べてわかったことです。
 オハイオ州ケース・ウェスタン大学のW・ワン博士らは、全国の糖尿病患者の治療データを調べたところ、GLP-1薬を使用した患者は、それ以外の薬を使用した患者にくらべてアルツハイマー病の発生率が40から70%低かったといいます。
 別の調査もあり、アルツハイマー病と診断された患者を2つのグループに分け、一方にGLP-1を、他方には偽薬を投与したところ、GLP-1グループはアルツハイマー病の進行が遅かった。ただこの研究では、両グループの差は10%程度とわずかなものだったといいます。

 ペンシルベニア大学の脳神経学者、カロリナ・スキビッカ博士はいいます。
「いま現在あがっているデータを見ると、見込みがあるといえる」
 GLP-1薬はアルツハイマー病の治療に使えるだろう。
 使えるといっても、治せるという意味ではない。一部患者の病気を多少遅らせる、といった程度です。そういう意味であっても、認知症に使える薬はほとんどないので、GLP-1で医療者の選択肢は広がるという期待があるようです。

 一連の議論で重要なのは、糖尿病の薬がなぜ認知症にも効くのかでしょう。
 あるいは、効くように見えるのか。
 鍵は、GLP-1が従来の薬とまったく異なる形で作用することらしい。GLP-1、正確にはGLP-1「受容体拮抗薬」は、膵臓の細胞に「取りつく」ことで糖尿病を治す。しかしこの薬は脳の細胞にも取りつくことができる。取りつくことで、脳内にいろいろな現象が起き認知症が抑制される、のかもしれない。

 なぜかはわからなくても、ぼくにとっては重大なニュースです。
 ぼくが認知症になったとき、対症療法にすぎなくてもGLP-1薬が「治療」になればいいので。こういうことで日本はいつもアメリカのあとをついていくから、時間切れになるかもしれないし、たいした効果はないかもしれない。でも、あわい期待をGLP-1に抱きます。
 ほかにさしたる方策もないことだし。
(2025年2月5日)