インドネシアはなぜ日本より「こころゆたか」なのか?
社会学者がこんな研究をしています。暮らしのゆたかさは金やモノでははかれない。ではどうすればはかれるのか。国連の有名な「世界幸福度レポート」では見えないものが浮かびあがります(The Happiest Country in the World Isn’t What You Think. By Byron Johnson Tyler J. VanderWeele and Brendan Case. April 30, 2025. The New York Times)。
国連の世界幸福度レポートについてはこのブログでも触れました(3月24日)。フィンランドが8年連続1位、北欧諸国が上位に名を連ねています。このレポートは、自分はどれだけ幸福と思うかを10段階評価で回答するといった手法がとられています。これに対し、ハーバード大学のタイラー・バンダーウィール博士らが、別な視点からの調査を進めました。
世界22カ国の20万人を対象に、5年にわたって行われた大がかりな調査は、幸福度、ハッピネスのかわりに、フラリシング(Flourishing)、ゆたかさという概念をつきつめようとしたものです。

ゆたかさとは、経済的、物質的な満足度だけでなく、精神の健康状態、人生に意味と目標があるか、家族や社会との関係性などもみてはじめてとらえられるものとされています。
そこで明らかになったのは、ゆたかさはGDPと一致しないことでした。
たとえば日常生活の満足度でスウェーデンやアメリカはもっとも高いレベルにあるけれど、生きる意味といったそれ以外の項目を加味し、総合的にみると、インドネシアやフィリピン、ナイジェリアより明らかに低かったといいます。
経済的に成功しながらゆたかなのは、調査対象22カ国のうちイスラエルとポーランドだけでした。

興味深かったのは、バンダーウィール博士らの考えるゆたかさという点で、日本がインドネシアよりずっと低かったことです。
これは、毎週宗教施設に行く人が3%しかいない日本にくらべ、インドネシアでは75%にもなることが大きな要因かもしれない。また地域や家族の結びつきも強く影響しているだろうことが、「ゆたかさ調査」から見えてきます。博士らはいいます。
「誰もがヨーロッパのような発展段階を追い求めるべきかどうかは、自明のことではない。生きる意味を損なうことなく経済発展をとげるにはどうすればいいかを考えなければならない」
日本は、生きる意味を損なうような経済発展をとげてきたということでしょうか。
ゆたかさというものを、ぼくらはモノのゆたかさとカン違いしてきたかもしれない。ほんとのゆたかさとはなんなのか、インドネシアの、途上国の人びとから学ぶべきことはさまざまにあるはずです。
(2025年5月2日)