精神病者はどこにでもいるはずだけれど、中国の当事者はどんな境遇にいるのだろう。かねて気になっていたので、めずらしく関連記事があると思って読んだら、精神科病院を濫用する話でした(‘When power can define madness’: China accused of using mental health law to lock up critics. By Amy Hawkins in Beijing. 23 May 2025. The Guardian)。
中国の精神科病院は、政治犯を隔離するために利用されているという話です。
いや、政治犯じゃないですね、役所に文句をいう人、くらいでしょうか。そもそもいまの中国に政治犯は存在しない。政治犯になる以前に、異議申し立てをしただけで精神病にされる。そら恐ろしい話です。

一例としてあげられていたのは炭鉱夫だったジャンポーさんです。炭鉱で事故にあい障害を負った。会社に対し補償金の増額を求めたけれど、抗議行動を起こしたら逮捕され、精神科病院に収容されました。1日数時間ベッドに縛りつけられ、強制的に薬を飲まされる日が22日つづいたといいます。
「電話も許されず、ベルトや靴紐も奪われてひどい目にあった」
企業だけでなく、都市開発をめぐって地方政府に抗議したら逮捕され、強制入院になったなど、ほかにも似たような例はたくさん起きています。
中国は2012年、精神障害者の虐待を禁止する精神保健法を制定しています。不当な強制入院は起きないはずだけれど、実際には精神病ではない人を収容する例があとをたたないと被害者や活動家はいいます。
精神科病院への強制入院に対する異議申し立ては、わかっているだけで100件以上起こされている。しかしほとんどの異議は認められていない。しかもその陰には無数の泣き寝入りがあるのではないでしょうか。

八方ふさがりをゆさぶっているのが、ネット上の告発です。
炭鉱夫ジャンポーさんの例は、中国の巨大SNS「ウェイボー」(微博)にアップされ、4月以来4千万回も閲覧されたといいます。「狂っているかいないか、当局が勝手に決められるなら、誰もが消されてしまう恐怖を抱くことになる」といったコメントが続々ついている。
無視できなくなった地方政府も、この件を捜査するというまでになった。とはいえ、結局はうやむやでしょう。SNSの書き込みも、少しでも反体制的とされれば削除されてしまう。
精神科病院を「不満分子」の収容所にしているなんてひどい話だけれど、日本の病院だって「社会に迷惑な人」を収容しているというのであれば、本質はおなじでしょう。どちらも「社会防衛」が先に立つことでは大差ないと思えます。
(2025年5月26日)