“とんでも医者”たちが保健行政を仕切っている。こうなったら命を守るために市民が “民間厚生省”を作るしかない。
そんな声が聞かれるほど、アメリカの保健行政は混乱しています。有権者がそうなることを望んだのだから、自業自得なのでしょうけれど(Kennedy Announces Eight New Members of C.D.C. Vaccine Advisory Panel. June 11, 2025. The New York Times)。
良識ある医者、科学者、市民は、あきれてものがいえないのではないか。
“反ワクチン論者”といわれるトランプ政権のロバート・ケネディ厚生長官は9日、ワクチン行政を決める国の委員会(ACIP)の委員全員を解任、その2日後、8人の新しい委員を任命しました。このなかに“問題委員”がぞろぞろ、こんな人たちが決めるワクチン行政はどうなってしまうか、疑念と不安が高まります。

8人のなかには、明確なワクチン否定論者がいます。陰謀説を唱えてきたものや、コロナ対策のロックダウンに反対したり、医療者へのワクチン接種に反対したものもいる。コロナには寄生虫薬イベルメクチンが効くなど非科学的な説を提唱してきた医師も、子どもがワクチンの被害にあった活動家もいる。
解任された委員のひとりで、フィラデルフィア小児病院のポール・オフィット博士は、厚生省は医学界の信頼を失ったといいます。
「こんな委員会は信用できない。だったらわれわれは国ではなく、市民の委員会を作るべきだという人もいるだろう」
すでにそういう動きが進んでいます。
市民の委員会というより、「信頼できるネット上のサイト」です。
たとえばワクチンについて、ニューヨーク・タイムズはフィラデルフィア小児病院のワクチン教育センター(Vaccine Education Center)を勧めている。

フィラデルフィア小児病院(Credit; Ken Lund from Reno, Openverse)
ここはワクチンの基礎からの解説、安全性と副作用、接種スケジュールなど、ワクチンについての信頼できる情報が網羅されている。WHOの「信頼できるサイトのリスト」にも含まれています。
ワクチンだけでなく、広範な医学医療の情報について、「信頼できるサイト」がタイムズには掲載されていました(NYT、4月28日)。
国が信用できなくても、民間にはすぐれた情報源がある。
かつて、がんについて調べるとき、ぼくはまず米国立の医療機関、NIHのサイトにアクセスしたものです。もうそうはできない。民間団体のアメリカがん協会にアクセスすることになるでしょう。NIHは、米厚生省同様、非科学的で危ないと思ったほうがいい。そういう時代です。
(2025年6月13日)