自閉症をめぐる議論がくすぶっています。
いまの診断名「自閉症スペクトラム」は、診断の範囲があまりに広すぎる、重症とそれ以外の二つに分けるべきだという主張です。もっともな言い分でしょう。でも線引きはむずかしい。精神科にそもそも確定診断なんてものがあるのかという気もするし(Should the Autism Spectrum Be Split Apart? Oct. 1, 2025. The New York Times)。
診断の変更を訴えているのは、自閉症科学財団(Autism Science Foundation、ASF)のアリソン・シンガー会長です。
シンガーさんには重度自閉症の娘、ジョディさんがいる。ジョディさんは意味のある会話がほとんどできず、28歳のいまも食事、着替え、排泄にいたる24時間の介護が必要です。こうした重度自閉症の患者は、「自閉症スペクトラム」とは別の疾患に分類すべきだと、シンガーさんは訴えています。

自閉症はこの半世紀、ずっと診断が広がってきました。
アメリカ精神医学会の診断基準「DSM」1980年版は、自閉症を、発語がなく社会性がなく、知能指数70以下の症例としています。いまでいう重度自閉症です。
1994年、基準が改定され、アスペルガー症候群が加わりました。社会性に問題はあるけれど、知能程度は平均か、ときにきわめて高い人びとです。
2013年には、そうしたすべてが「自閉症スペクトラム」に含まれました。
1980年代に1万人に2人から4人とみられていた自閉症は、500人に1人となり、さらに150人に1人へ、いまでは子ども31人に1人が自閉症とされています。約150倍の増加ですが、そのほとんどは重度ではない。
自閉症はいまや社会的ステータスともされる。世界一の金持ちであるイーロン・マスク氏やビル・ゲイツ氏も自閉症だった、といわれるように。

アリソン・シンガーさんはいいます。
「イーロン・マスクがうちの子とおなじ病気だなんて、バカらしい」
重症自閉症の全国家族組織によれば、重症者の80%が学校にも通えず、受けるべき支援を受けていない。医療資源も重度から中、軽度の自閉症に移っている。それはおかしいと、重症児をかかえる親たちは苦境のなかから訴えています。
診断基準は、精神医学にとってつねに難問でした。加えて、“旧アスペルガー系”の、自閉症はすでに自分たちのアイデンティティだ、いまさら奪うなという主張もある。
自閉症の診断には、さらなる右往左往があるでしょう。
(2025年10月6日)