中国の科学研究はアメリカを抜き、世界1になった。
専門家がそういっています。アメリカの保守派はいまだに自分たちが世界1と思いこんでいるが、それは幻想にすぎないと(Trump’s Crackdown on Chinese Students Ignores a Startling New Reality. By Bethany Allen and Jenny Wong Leung. Oct. 19, 2025. The New York Times)。
警告を発しているのは、ASPI(Australian Strategic Policy Institute)、オーストラリア戦略政策研究所のベサニー・アレンさんとウォン・レウン博士です。
アレンさんたちは、世界中の科学論文を網羅する「ウェブ・オブ・サイエンス」というデータベースを調べてきました。人工知能や量子コンピュータなど、最先端とされる64の分野で、もっとも重視される論文が各国のどの大学や研究機関からどれほど出ているかを調べたのです。対象論文は数百万件におよびました。

そこで明らかになったのは、中国の圧倒的な存在です。
最先端64分野のうち、57の分野で中国の論文がトップを占めていた。トップだけでなく、その分野のベストテンの多くを中国科学者の論文が占めています。
なかでも傑出していたのが北京の清華大学でした。64分野のうち半分近くの29分野でベストテン入りしている。AI、人工頭脳のアルゴリズム、ハードウェア、そして自動操作の3分野ではトップでした。
これまで世界1といわれたMIT、マサチューセッツ工科大学がトップだったのは10分野にすぎない。科学技術の研究で、いまや精華大学が世界の頂点です。
もちろんこの評価は論文数の比較だから、これがそのまま中国の現状とはいえない。けれど活発な研究に支えられ、中国の工業生産は躍進している。ドローンや太陽光パネル、電気自動車やロボット技術で、中国はまぎれもないトップランナーでしょう。
しかも今後、量子コンピュータや半導体、AIなどの分野に20兆円もの研究費をつぎ込むといっている。それは科学研究だけでなく、中国軍の近代化、先鋭化も進めます。

かたやアメリカのトランプ政権は、地球温暖化を否定するなど学問全般を軽視し、科学研究費も削減するなどまったく逆の方向に向かっています。このままではアメリカの安全保障が揺らぐと、アレンさんたちは警告している。
ASPIによれば、アレンさんは現在は台湾を拠点にしています。だから今回の論考も政治的なトーンが含まれているかもしれません。それを承知のうえで、なおかつぼくらは中国が科学研究のトップだという現実をひとまず自分のなかに飲みこまなければならない。トランプのアメリカとも、習近平の中国ともつきあいたくないという前に。
小国は、小国としての生き方を模索しなければなりません。
(2025年10月22日)