中道は生きている

 世界中どこもかしこもポピュリズム、右傾化の21世紀と思っていたら、いやいや、まだ中道派は生きていますという主張がありました。
 ニューヨーク・タイムズが社説欄で掲載したのは、意見というよりアメリカ政治の詳細な、そして長文の分析です。社説を論じるだけでなく、論の裏づけをきちんと記述して説得力がありました(America Still Has a Political Center, and It’s the Key to Winning. The Editorial Board. October 20, 2025. The New York Times)。

 トランプ大統領の登場で、アメリカ政治は共和党極右、民主党極左が救いようもなく対立し、両極への分断は広がるばかりの印象があります。けれど政治家も選挙民も、けっしてみんながそうなっているわけではない。中道政治を求める動き、いわば健全な常識は生きているとタイムズ紙はいいます。

アメリカ議会議事堂

 根拠は、16の選挙区の分析でした。
 アメリカ議会下院は、435人の議員がいて2年ごとに総選挙が行われます。435の選挙区のうち、去年の選挙では16の選挙区が激戦で、しかもその選挙結果が同時に行われた大統領選挙の結果とは反対でした。民主党の候補が、共和党のトランプ大統領候補が勝った地区で当選し、逆に、共和党の候補が民主党のハリス大統領候補が勝った地区で当選している、そういう選挙区が16あったというのです。

 接戦を制した下院議員16人は、共和党極右でも民主党極左でもなかった。いずれも穏健な中道派です。
 ここから、タイムズ紙はいいます。
・・・ある世論調査の専門家は、「怒れる中道は強い」といっている。16人の下院議員はたんに中道だっただけではなく、怒れる中道有権者を、政治をあきらめた選挙民を取りこむことで接戦を勝ち抜いている・・・

 だから、と、タイムズ紙は要旨次のようにいいます。
 民主党はこの事実をよく思い知るべきだ。移民や犯罪対策、LGBTQなどの少数派であまり先走ることなく、中道の声を聞き、彼らの思いに沿う候補者を見いだすこと、そうして次の選挙を戦うべきだ。トランプ政権によって破壊されつつある民主主義を救うために。
 多様性や公正、包摂を否定するのではない。ただ、そうした路線はあくまで選挙民の健全な常識の範囲内で進めるべきだといっています。

 リベラルの旗手タイムズ紙が、ここまで引き下がっていうんだ。
 危機の深刻さは日本以上だろうかと思いながら、異例の社説を読みました。
(2025年10月27日)