デジタル・デトックス

 デトックスは体内の毒物をとりのぞくことですが、最近は「デジタル・デトックス」をよく聞きます。
 スマホやパソコン、SNS(ソーシャルメディア)などのデジタル文化は、利用者の精神をむしばむことがある。デジタルの有害な影響をとりのぞくのが「デジタル・デトックス」、この方法をめぐる論争がさかんです(Study Finds Mental Health Benefit to One-Week Social Media Break. By Ellen Barry. Nov. 24, 2025. The New York Times)。

 ハーバード大学の精神医学者、ジョン・トロース准教授らはSNSの影響を調べています。
 最近行った研究では、18歳から24歳の若者295人に、SNSの使用を一時中止してもらいました。全面中止ではなく、できる範囲でSNSを使わないようにするというゆるやかなもの。その結果はどうだったか。
 不安症の兆候が16%減りました。うつの症状も25%、不眠も15%減っています。ソーシャルメディアの一時中止は、精神保健に一定の効果がありました。

 若者とSNSについては、たくさんの研究が行われています。
 結果はまちまちでした。SNSが有害だというものもあれば、そうとはいいきれないというものもある。どちらがより妥当か、トロース准教授らは自分でたしかめるために今回の実験を行ったといいます。結果は、精神医学者にとってとりあえず納得できる内容でした。

 研究には、別の成果もありました。
 デジタル文化が精神保健に影響するのは、その「使い方」であり、スクリーン・タイム、つまりスマホやパソコンの「画面を見ている時間」はそれほど関係がないと、被検者の回答から見えてきたことです。SNSの一時中止で精神保健は向上したけれど、トータルのスクリーン・タイムはむしろ増えたという人もいました。
 デジタル・デトックスを進めようとするならたんにSNSを禁止するとか、スクリーン・タイムを短くしてもさして効果はないということです。デジタル、ことにSNSを使うなら、依存症になるような使い方はしない、また他人の評価を気にするあまり自尊感情を害するような使い方はしないほうがいいということでしょう。

 欧米では、とくに学校でのSNSを禁止したり、スクリーン・タイムを制限する動きが進んでいます。たぶん中学生くらいまではSNSなんてないほうがいいし、乳幼児のスクリーン・タイムはゼロか、最小限にとどめるべきです。でも一律の規制や禁止は、年齢があがるにしたがってだんだん意味を失います。
 デジタルの害が強まったら、デジタル・デトックスはひとつの解決法でしょう。けれどいちばんの解決法は、生身の人間といることだろうとぼくは思います。
(2025年11月26日)