HiTOPという試み

 精神科の診断に、HiTOPという新方式が議論されている。
 マイア・サラヴィッツさんが、自閉症の当事者の立場からこの動きを肯定的に伝えていました(I Was Labeled Bipolar, Depressed, O.C.D. Here’s Why. By Maia Szalavitz. Oct. 5, 2026. The New York Times)

”神経科学ジャーナリスト”のマイア・サラヴィッツさん

 精神科でいちばん使われるのは、アメリカ精神医学会の「DSM」という診断法でしょう。
 DSMは、診断の「基準」を明確にし、どこでもだれでもおなじような診断が下せるようにしている。けれど基準が明確だからといって診断も明確になるわけではない。あたりまえのように誤診や過剰診断がおきています。
 精神症には、DSMではとらえられない複雑多様さ、変幻自在さがあるので。

 この記事を書いたサラヴィッツさんは、これまでに6回、診断が変わりました。3歳のときのADHD(注意欠如多動症)、20代で薬物依存症、その後は双極症、うつ症、強迫症など。いまいちばんぴったりするのは自閉症、あるいは神経多様性だといいます。
「私のように長年、奇妙な診断を受けた人はたくさんいる。精神科の診断を受けた人の半数以上が、やがてほかの診断名に変わる」

 DSMだけで診断できる精神科医は、まずいない。
 そこでいま議論されているのがHiTOP(Hierarchical Taxonomy of Psychopathology)という方式です。「精神病理の階層化分類法」でしょうか。いくつかの症状を共通する側面でとらえ、その一方、表面化した症状の基底に共通する要因がないかを考える。多様な精神症のそれぞれを、複眼的に、階層的に捉える試みです。

 サラヴィッツさんはいいます。
 幼児期の自分は音や光の感覚過敏があった。そのため社会性がないとされ、いじめにあっている。うつで孤立し、薬物依存になった。もしかしたらそれらは、前頭葉の神経細胞が過剰につながっていたせいかもしれない。年齢とともに神経細胞が再構成されたのか、いまは精神症の当事者ジャーナリストになっている。

 DSMは6つの、別々の診断を下しました。
 もしHiTOPのような考え方があったら、6つの診断は一筋の流れとして捉えられていたかもしれない。自分はこれほど回り道をしなくてすんだかもしれない。
 HiTOPがDSMにとってかわることは、当面はないでしょう。けれど精神科の診断は治療の出発点であるとともに、患者が自分を理解する出発点でもある。
 DSMには、さらなる改訂を進めてもらわなければなりません。
(2026年10月14日)