永遠のソクラテス

 古典を大事にしよう。
 ソクラテスやプラトンを、ふたたび学ぼうではないか。
 アメリカの大学人が呼びかけています。ソクラテスやプラトンがほんとに大事だからというより、古典を学ぶ「過程」が人間を作るからです。この過程を省き、一足飛びに金もうけや権力への近道を歩もうとするから、大学も民主主義も力を失ってしまう。
 いまさらいってもどうにもならないだろうか。でもやっぱり、いまだからこそくり返すのでしょう(Higher Education Needs More Socrates and Plato. By Ezekiel J. Emanuel and Harun Küçük. May 19, 2024. The New York Times)。

ソクラテス(生成AI画像、Pixabay)

 尊敬する生命倫理学者、ペンシルベニア大学のE・エマニュエル教授らが主張しています。
・・・大学への信頼は低下している。去年のギャラップ社調査では、高等教育を信頼している人は36%にすぎない。8年前にくらべ顕著な低下だ・・・
 アメリカの大学はいま、ガザ戦争への抗議で揺れています。学生がキャンパスを占拠し、保守政治家が名だたる大学の学長を議会でつるしあげている。学長が辞任したり大学理事会が動揺したりしているけれど、大学の衰退はガザ以前からはじまっている。

 エマニュエル教授は、これは大学が一般教養課程を削減し、専攻課程を重視するようになったことが原因でもあり結果でもあると見ている。
・・・過去1世紀、アメリカの教育が世界をリードしたのはキャリアを築けるからだけではなく、民主主義社会の市民としての教育を受け、批判的思考を訓練し、創造的な人間として鍛えてきたからだ。高等教育を立て直し、基礎を再構築しなければならない・・・

「ソクラテスの死」(18世紀フランス絵画)

 基礎の再構築とは、考える力を養うこと。そのための古典です。
・・・古典を学ぶことは、日常の雑音から距離を起き、基礎や原理についての自由な思考を進める余裕を持つことだ。われわれの最大の問題はしばしば、問題をつきつめることではなく、そこから脇道にそれることで見えてくるものだ・・・
 そのための古典、いや古典を通して身につける思考力、議論の技法。
 遠回りなようでも、それこそが必須の力になる、だからキャリアのために教養課程を無視して一足飛びに生命科学に進むのではなく、まずは教養科目にとりかかるべきだと、生命科学が専門のエマニュエル教授はいいます。

 そういう遠回りをもっともきらうのが保守派です。教養だの批判的思考だのはむだであり、気取りでしかない。そういう風潮がアメリカ社会の分断に深くつながっている。ぼくらはそれを笑うことはできません。学術会議を攻撃する日本の保守政権は、大学を攻撃するアメリカの保守派と、発想においてぴったり一致しているのですから。
(2024年5月24日)