先週、シカゴで開かれた民主党大会はひさしぶりに楽しいイベントでした。
ミシェル・オバマ元大統領夫人を頂点に、これでもかと出てくることばと熱気のうねり。ネットでも十分堪能できました。
印象に残るのは、ひとりの若者が登場した場面です(Gus Walz melted hearts at the DNC, putting neurodiversity in the spotlight. Aug. 22, 2024. The Washington Post)。
ガス・ウォルズさん、17歳。
民主党の副大統領候補に指名されたティム・ウォルズさんの息子です。父親が2万人の観衆の喝采とともに指名を受けた瞬間、観客席から立ち上がり拍手しながら叫びました。
「ぼくの父さんだ!」
ガスさんはステージに上り、父親のティム、母親のグウェン、姉のホープさんととともに指名をよろこびました。涙を流しながら。
ガスさんは障害者です。
NVLD、非言語学習障害(nonverbal learning disorder)と呼ばれる障害で、ADHD(注意欠如多動症)と不安症もともなっている。言語に問題はないけれど、空間認識や非言語コミュニケーションが苦手で、社会性の構築に苦労するらしい。かつて自閉症、いまはニューロダイバーシティ(神経多様性)といわれる概念の一部です。
ある母親は、テレビ中継を見た瞬間にわかったといいました。あれは“私たちの子”だと。自分にもおなじ障害の子がいる。他人にはわからなくても、自分たちにはわかる。
そういう子を、副大統領候補に指名されたティム・ウォルズさんは育ててきました。
彼は息子の障害を隠さず、特別視もせず、舞台上でただともに抱き合ってよろこんだ。その姿が、ティム・ウォルズとは誰かを雄弁に語ります。息子、ガスさんの障害について、ティム・ウォルズさんは以前こう書いていました。
「時間はかかったが、ガスは何かが足りないのではなく、秘めた力があると理解するようになった。聡明で、すばらしい息子だ」
アメリカ障害者連合のマリア・タウン会長はいいます。
「障害のある人の多くはこの場面に強く心を動かされた。全国的に注目される舞台で、こんなことが起きることはまずないから」
一方、保守派はそういうウォルズさんたちをSNSで「おかしな家族」「ダメなやつら」とからかっている(NYT、8月26日)。
障害というものをとおして、人が人を見る目の深さがあらわれます。
そのことを教えてくれたガス・ウォルズさんに感謝しなければいけません。
(2024年8月27日)