競争的全体主義

 インド、トルコ、ハンガリー。次はアメリカ。
 そんな声が聞こえます。全体主義の政治家が選挙で民主的に、しかも何度も選ばれる国のことです。アメリカは11月の選挙で、トランプ前大統領が当選する可能性が強まっている。なんで民主主義の敵といわれる候補が当選するのか、プリンストン大学のゼイネップ・トフェクチ教授が論じていました(A Strongman President? These Voters Crave It. By Zeynep Tufekci. Jan. 14, 2024. The New York Times)。

 社会学者のトフェクチ教授はこの8年、トランプ前大統領の集会を見てきたといいます。そこにいたのは強い指導者、力の指導者を求める選挙民でした。
 アイオワ州のトランプ集会にいた47歳の女性はいいます。
「世界に通用する強い人、他の国から恐れられる人がいい、ちょっとこわくても。みんなに好かれなくてもかまわない。強い方がいいんだから。ちょっとクレイジーな、ほかの国が恐れるような人が国を導ける」

 トランプ候補は、自分に反対するリベラルを「ゴキブリ」とののしり、自分が当選したら意に沿わないメディアはつぶす、FBI(連邦捜査局)を使って政敵を締めあげるなど、民主主義の根幹を否定する言動をくり返しています。けれど支持者は、民主主義がどうなるかに関心はなく、映画「トップガン」の主人公のように敵を打ち負かす力強い指導者を求めていると、トフェクチ教授はいいます。
・・・力を前面に出し正統性を誇示するのは「競争的全体主義」と呼ばれる。彼らのもとで多くの民主的な動きは踏みにじられ、不正にみちた選挙がくり返される。インドのモディ首相、トルコのエルドアン大統領、ハンガリーのオルバン首相がその典型とされる。こうした政治家とおなじように、トランプはこの不安定な世界でアメリカに平和をもたらす力を持つのは自分だけだと信じさせている・・・
 競争的全体主義のもとで、指導者はもはや政敵を投獄したりはしない。
 彼らはくり返し「民主的に」選出される。彼らを支持する選挙民がいるから。彼らは選挙で負ければ、不正があったといって反乱を起こす。

Z・トフェクチ教授(プリンストン大学)
(本人の Facebook より)

 トフェクチ教授は学者らしく、こうもいっています。
・・・民主主義の規則に反して力を発揮する政治家はこれまでにもいたし、アメリカだけのことではない。建国の父ジェファーソンも、プラトンもそのことを心配した。トランプはそんなにミステリアスではないと知ることで、かれの力をよりよく理解できるだろう・・・

 トランプ候補に魔力があるわけではない。彼を作り出しているのは選挙民であり、彼はありきたりな全体主義者のひとりにすぎない。そう考えると、多少わかったような気にもなります。こころのざわめきが、いくらか落ち着きます。
(2023年1月15日)