アメリカは劣化した、もうだめだと思う一方で、いや、まだまだ底力が残っていると思うことがあります。
精神障害者に対する社会的な支援です。ニューヨーク市の当事者活動を知り、その斬新さに打たれました(He Hears Voices in His Head. He Also Helped Win an Election. May 7, 2025. The New York Times)。
記事になったのは、ニューヨーク市の精神障害者支援施設「ファウンテンハウス」で活動するアーヴィンド・スクナナンさん26歳です。

スクナナンさんは統合失調感情障害という、統合失調症と双極性障害が重なったような精神病で、症状は重く、20歳までに20回、精神科病院への入退院をくり返しています。
2018年、ファウンテンハウスにつながり救われました。ファウンテンハウスには、スクナナンさんのように精神病で学業を中断した人が再挑戦するための「教育回復プログラム」があったからです。
教育回復プログラムで、ジェニファー・ラジクマール教授と出会いました。
教授は、自分の学生になったスクナナンさんが重度の精神病でもきわめて高い能力をもっていることをすぐに理解しました。実際、スクナナンさんは幻聴や妄想に振りまわされながら、オールAの成績でカレッジを卒業しています。
すごいなと思ったのは、ラジクマール教授が2020年、ニューヨーク州議会に立候補して当選したとき、スクナナンさんが選挙参謀を努めたことです。
スタッフを雇い、ビラをはり、選挙区をまわって選挙戦略を立てる。そのすべてにスクナナンさんは加わりました。病気の症状が悪いときは、精神科病院のなかで選挙対策会議を開いたというから、ラジクマール教授、いやいまではニューヨーク州議会議員は、精神障害者を意図的に、また積極的に主要スタッフにして、ともに選挙を戦ったといえるでしょう。
日本の選挙で、明らかにビョーキの人が選挙スタッフを務めているなんて聞いたことがありません。

(ファウンテンハウスのウェブサイトより)
選挙が終わったいま、スクナナンさんはさらに大きなビジョンを抱いています。ファウンテンハウスのような支援施設を増やすだけでなく、町の一部をまるごと当事者が暮らし、運営する「精神障害者の地区」にすることです。
「大都市にはどこにもチャイナタウンがある。だったらメンタルヘルスタウンができてもいいじゃないか」
夢であっても、こんなことが考えられる社会ってやっぱりいいですね。
(2025年5月9日)