クルーズをやめよう

 クルーズ船のイメージが悪化しています。
 クルーズ船は膨大な量の炭酸ガスを排出し、地球温暖化を進めるモンスター。だからクルーズ船で旅するのはやめてほしいと環境団体が訴えています。彼らの話を聞くと、クルーズ船に乗る人は「うらやましい金持ち」ではなく、「環境を破壊する無神経な人たち」に見えてくる。貧乏人のやっかみと思われそうだけれど、クルーズ船の見方は変えた方がいい(Are ‘green’ cruise ships good for the climate? June 28, 2024. BBC)。

 豪華客船ですごす休暇は、かつて富豪の特権というイメージでした。でもいまは大衆化し、休暇というよりエンタメと興奮の非日常、ディズニーランドの洋上版といった観があります。

 ことし就航した世界最大のクルーズ船、「アイコン・オブ・ザ・シーズ」は排水量25万トン、定員7600人、7つの水泳プールと映画館、劇場、それに40以上のレストランやバーで「全ての年代のお客様に究極のバケーションをお届け」するそうです。
 クルーズ船の人気は高まる一方で、今年中に世界で360隻が就航し、総乗客数は3千万人と予想される。環境団体トランスポート&エンバイロメントのコンスタンス・ディクストラさんはいいます。
「クルーズ船は数も増え、大型化している。それがさらなる大気と海洋の汚染につながる」

 専門家によれば、大型クルーズ船は1日30万リットルもの燃料を消費する。乗客1人1日あたりの炭酸ガス排出量は、地上にいる人の8倍です。環境団体フレンズ・オブ・ジ・アースのメイシー・キーバーさんはいいます。
「みんなに警告したい。もし環境に関心があるなら別の休暇を考えるべきだと」

 炭酸ガスだけではありません。クルーズ船は航海中、大量の有害廃棄物を排出する。近年は廃棄物のリサイクルを行っているというけれど、なにしろ大型化しているので、下水や排水などによる海洋汚染は無視できません。
 ヨーロッパでは、ベニスやアムステルダム、バルセロナなどの都市がクルーズ船を禁止しました。観光公害への対策でもあるけれど、巨大化したクルーズ船は歓迎されるより問題とされるようになったということでしょう。

 ぼくはかつて、週末になると相模湾を帆走した時期があります。
 風と波と無為な時間。外洋ですごす日々はかけがえのないものでした。そうした日々にぼくは「救われた」という感覚を、いまでも持っています。
 クルーズ船にあるのは「究極のバケーション」、おなじ洋上でもまったくちがう時間です。それが環境をそこない、あからさまに温暖化を進める装置であるなら、羨望ではなく疑念とともに見直しましょう。
(2024年7月4日)