ゴミの使い方

 バルセロナの地元民が、観光客「帰れ」と水鉄砲を撃っている場面をきのう書きました。あふれる観光客はあちこちで公害になっています。
 それをいい方向に変えることはできないか?
 デンマークのコペンハーゲンは別のことを考えている。観光客が「お行儀よく」したら、「ごほうび」にただのコーヒー券や電車の切符をあげるというのですね。そういうことを思いつく社会って、とても暮らしやすいだろうと思います(Copenhagen’s new sustainability push? Free coffee for tourists. July 8, 2024. The Washington Post)。

 観光客への「ごほうびプログラム」は、7月15日から試験的に実施されます。
 たとえば路上に落ちているプラスチックごみを拾ったら、国立美術館の「クラゲづくり」ワークショップに参加できる。プラスチックをアートにすると同時に、美術館にただで入れます。自転車に乗ったり歩いたりする人は、協賛レストランでベジタリアン・ランチが食べられる。
 環境にいいことをしたら、いろいろな施設の入場料が無料になり、ただの飲み物や食べ物がもらえる。自治体や企業などの協賛で、8月11日まで行われるそうです。

 たぶんこういう動きのもとには、「どうやって観光客を撃退するか、観光公害をなくすか」ではなく、「たいへんだけど、どうすればこれを“楽しいこと”に変えられるか」という感覚がある。そうして打ち出されたのが、ごほうびプログラムだったのでしょう。

コペンヒル(コペンハーゲンの複合施設)
(Credit: Lars Plougmann, Openverse)

 無料利用券を出しているおもな協賛団体のひとつに、「コペンヒル」があります。
 へえ、こんなところがあるんだ。
 すなおに感心します。
 コペンハーゲンの中心にあるコペンヒルは、市のごみ焼却場です。でもごみ処理は巨大な複合施設のほんの一部の機能です。施設の屋根は全長450メートルもの人工スキー場になり、4基のスキーリフトがある。スキーだけでなくハイキング、ランニング、ロッククライミングもでき、家族連れがカフェやレストラン、バーも楽しめる。もちろん最新鋭のゴミ焼却法で市内3万戸分の電力を発電し、7万戸に温水を供給しています。

(コペンヒル広報サイトより)

 ぼくらのイメージにあるごみ焼却場は、どうしてもネガティブです。ない方がいい。そんなところで自分たちのゴミを燃やすことに、温暖化を進めることに、そこはかとない罪悪感も覚える。でもコペンヒルはちがいます。そんなんじゃない落ち着きがある。おしゃれです。こういうの、うちの近所にも欲しいなと思えるような。

 そのコペンヒルが、“観光公害の対策”にも活用されているということ。
 デンマークという国の社会設計には、ぼくらの社会にはない成熟度があるのではないでしょうか。おなじ巨大施設でも、万博会場とコペンヒルのちがいに見られるような。
(2024年7月12日)