アメリカではことし、二つの大規模なストライキが起きました。
WGA(全米脚本家組合)とUAW(全米自動車労組)のストです。ハリウッド映画と自動車産業が混乱したけれど、日本にはほとんど影響がありませんでした。でもここには、これからの日本人にとっては死活の重要な教訓があるんじゃないかとぼくは思いました(Why Unions Are Good for America. By Nicholas Kristof. Sept. 30, 2023. The New York Times)。
コラムニストのニコラス・クリストフさんがいっています。
労働組合に対して、いまの社会には批判やあざけりがある。経済を壊すとか、腐敗しているとか、ラッダイト運動(工場打ち壊し)だとか。UAWのストにも「やつらは一度つぶしたアメリカの自動車産業を、またつぶそうとしている」という声もある。
クリストフさん自身、長年労働組合には懐疑の目を向けてきました。でもいまはそうではないといいます。
「労働組合は資本主義とおなじように、不完全だが必須のものだ」
過去半世紀、労働運動は退潮しました。
かつて多くの労働者が組合に加盟していたけれど、いまその組織率は6%、ほとんどが組合に参加していない。政府と経済界は労組の力を弱めつづけてきた。その結果、妥当な賃金は支払われず、健康保険や退職金は削られ、貧富の差は拡大している。
研究者は、1968年以来の格差の拡大は労組の組織率の低下に一致するといいます。労働組合の組合員は、そうでない労働者より賃金が10から20%高いという研究もある。要するに労働組合は、問題や批判はあってもそれなりに労働者を守る役割を果たしてきました。子どもの教育や福祉を社会に訴える力でもあった。
クリストフさんはいいます。
「ストが経済に及ぼす影響を心配するのは当然だ。UAWの要求は過剰かもしれない。けれど同時に私たちは、もし労組がなければ労働者はどうなってしまうか考えなければならない。10年、20年、さらにその先の、子どもや孫が住むこの国で、組合を持たない労働者がいかに搾取され押しつぶされていくかを考えなければならない」
ただ労働組合を作ればいい、強くすればいいという単純な問題ではないでしょう。けれど日本のようにストライキをしない労組、政権に協力するだけにしか見えない労組がいくらあっても、労働者はしあわせにならない。労働者は、ときにストライキに訴えてでも資本と戦わければならない。WGAとUAWのストはそういっています。
労働組合が不完全なように、資本もまた不完全です。労働者の側からのチェックが欠かせない。そのことをぼくらはもう半世紀も忘れているのではないでしょうか。
(2023年10月4日)