アメリカ東部の先進的な町で、先進的なタバコ対策がはじまります。
タバコを禁止するというより、最初から「なかったこと」にする。
どういうことか。
いまいる子どもが、おとなになってもタバコが買えないようにするというのです。いま20歳の若者が21歳になり、タバコが買える年令になっても、タバコの販売を禁止する。そういう条例がマサチューセッツ州の6つの町で、来年1月から施行されます。よく考えたものだと思いました(Some Massachusetts towns are trying to say goodbye to tobacco — forever. July 10, 2024. The Washington Post)
2004年以降に生まれた町民には、21歳になってもタバコを売ってはいけない。
こんな条例を制定したのは、マサチューセッツ州ボストン郊外のブルックラインやリーディングなど、6つの町です。これらの町では、2004年以降に生まれた町民は2025年には21歳になるので、本来ならタバコを合法的に吸える。でもそういう「新成人」に、コンビニもガソリンスタンドもタバコを売ってはならない。
来年以降、6つの町にはしだいに「タバコのない世代」が増える。何十年かすればタバコのない町が完成するというわけです。
一見、まわりくどい。
一律に禁止すればいいじゃないかと、むかしの人なら考えるでしょう。でもタバコや麻薬のように依存性のある物質は、禁止と処罰では対処できない。そこを熟知した人びとが新条例を考え出しました。
いまあるタバコをやめろというのではない。もともとタバコに無縁だった子どもたちが、おとなになっても気軽に買えないようにする。誰かから何かを奪うのではない、最初から「なかったことにする」というのです。
イギリスやニュージーランドでも検討されていますが、この6町が来年から世界の先端をゆくことになります。
もちろん限界はある。タバコがほしい「新成人」は、隣町に行けばいくらでも買える。でも地元のコンビニやスーパーで買えなければ、消費は鈍るでしょう。
タバコ産業やコンビニ業界から訴訟も起きました。しかし行政側の勝訴となり、新条例は来年1月から施行されます。担当者はいいます。
「地域をもっと健康なところにしたいというだけのこと。これで胸を張れます」
レストランでの禁煙や喫煙年齢の引き上げは、最初は小さな試みとしてはじまり、やがてそれが全国に広がっている。「タバコのない世代」もおなじような経過をたどるでしょうか。社会の成熟度が問われているようです。
(2024年8月6日)