ドローンの矛盾

 台湾危機は、少し先に延びるかもしれない。
 そんなことをウクライ関連の記事を読んで思いました(For Western Weapons, the Ukraine War Is a Beta Test. By Lara Jakes. November 15, 2022. The New York Times)。

 ウクライナ戦争は、第二次大戦後の最大の戦争です。そこで使われる武器、戦術はたえず変化し、ぼくらの世界観を変えています。
 そうした変化のなかでよく知られているのが、携行式武器の発達でしょう。ジャヴェリンやスティンガーなど、歩兵が持ち運べる“飛び道具”は地上戦の様相を変えました。重厚長大なロシア軍が、そのために軽量俊敏なウクライナ軍に勝てないでいる。

ジャヴェリン・ミサイル
(Credit: The U.S. Army, Openverse)

 大小のドローンも近代戦に欠かせない装備となっています。いまやドローンだけでなく、ドローンを攻撃する兵器「スカイワイパーズ」まで登場し、ドローンをめぐる矛と盾の争いは新段階を迎えました。
 目立たないけれど、決定的に重要なのがウクライナ軍の情報処理システム「デルタ」です。これは広大なウクライナの全戦域で、敵対するロシア軍の配置や動きをリアルタイムで捉え、全軍が共有する情報ネットワークです。NATOに支援されたこのシステムで、ウクライナ軍はロシア軍を短時間で正確に攻撃できるようになり優勢を確立しました。

炎上するロシア軍車両(5月)

 ウクライナのミハイロ・フェドロフ副首相はいっています。
「ウクライナは最高の実験場だ。われわれは軍事技術と現代戦の革命的な変化を捉えている・・・未来の戦争は、最大のドローンと最少の人間のものだ」
 ドローンの戦争。いずれここにはロボットも登場するでしょう。
 現代の戦争はしだいに人間の関与が減り、機械が進出する。それは戦争の閾値を下げるかもしれません。すでにアメリカにはその兆候があります。

 今回ぼくが興味を引かれたのは、ドローンの海上版、無人操縦ボートの登場でした。この夏、ロシアの黒海艦隊は無人ボートの攻撃でかなりの被害を被ったらしい。おそらくウクライナが決行したこの攻撃は、空のドローンとおなじく、海の無人攻撃ボートがこれからの戦争で大きな役割をはたすことを示唆しています。

 ぼくが思ったのは、そういう無人攻撃ボートが発達したら、いずれ台湾侵攻をもくろむ中国軍にとってかなりの脅威になるということでした。台湾海峡を渡る中国艦隊が無数の無人ボートに攻撃される場面を想定すると、中国は台湾侵攻をしばらく思いとどまるかもしれません。
 そうなればいいなと思うけれど、きっと中国はその対抗策を開発するでしょう。双方に信頼がないかぎり、軍事競争は終わることがありません。
(2022年11月17日)