いままで当たり前だったことが、いつのまにかそうでなくなることがあります。
鳩に餌をやるのは、むかしよく見たけれどいまは事実上禁止です。赤ちゃんは背中におんぶするものと思っていたけど、ほとんど見かけなくなりました。学校の先生やかかりつけのお医者さんにお歳暮を贈るのは、いまは非常識と笑われるでしょう。
おなじような変化がペットの世界にも起きるんじゃないか。ペットを気軽に買って楽しめる時代はもうすぐ終わるかもしれない。そんなニュースがありました(New York Bans Pet Stores From Selling Dogs, Cats and Rabbits. Dec. 15, 2022, The New York Times)。
ニューヨーク州がこのほど、犬、猫、ウサギのペットショップでの販売を禁止する法律を可決したのです。この法律は2年後の2024年12月施行なので、それ以降はペットショップで子犬や子猫を買うことはできなくなるでしょう。ニューヨーク州には80ほどのペットショップがあるけれど、ほとんどが閉店に追いこまれるといわれています。
動物愛護団体の長年の活動の成果です。彼らはかねてから、ブリーダーと呼ばれるペット繁殖業者が、金もうけのために残酷な手段で子犬や子猫を産ませつづけていると非難してきました。高く売れる子犬、子猫を無理にたくさん産ませ、親から引き離して罪のない動物たちを苦しめているというのです。もちろんペット業界は反対したけれど、動物の権利と福祉を守るのは時代の流れ、超党派で可決された法案が12月、州知事の署名で成立しました。
この法律には、含みがあります。
市民に対して、ペットを飼うなといっているのではない。「シェルターにいるペットを引き取ろう」と促しているのです。
アメリカではコロナ禍がはじまってからとくに、経済的理由などでペットを捨てる人が増えました。行き場のないペットでシェルターはどこもあふれている。ペットを飼うなら、そういう捨てられた犬猫を引き取ればいいではないか、というのですね。ペットの販売を禁止すればこの動きは進む。なかなかいいしくみを考えたものです。日本のように、捨てられたペットをどんどん殺処分にするよりはずっといい。
ペット販売禁止の動きは、ヨーロッパでも進んでいます。やがて日本も無視できなくなるでしょう。
ペットと人間のかかわりは見直しを迫られます。ぼく自身はそうなることを期待しています。犬や猫がきらいではないけれど、犬猫を“溺愛”することには抵抗がありますから。そういう人ほどかんたんに捨てるんじゃないかと思うし。
ペットの常識は変わる。いずれ“ペット”という呼び方も変わるんじゃないでしょうか。
(2023年1月4日)