マジリス、というアラブの文化をはじめて知りました。
近代西欧の民主主義とはちょっとちがう、伝統的な集まりのことです。この伝統を持ち込むことで、国連の重要な会議であるCOP28(気候変動会議)はまとまったという指摘があり、覚えておきたい出来事だと思いました。ニューヨーク・タイムズのコラムニスト、ピーター・コイさんが書いています(This Might Be What Broke the Deadlock at COP28. By Peter Coy. Dec. 15, 2023. The New York Times)。
UAE、アラブ首長国連邦で13日に閉幕したCOP28は、史上はじめて「化石燃料からの脱却」が合意文書に盛りこまれました。環境派はまだまだ不十分と批判するけれど、「脱却」という文言が入ったのはなかなかの成果だったと評価されている。会議議長のUAE、スルタン・アル・ジャベル気候変動特使は、合意文書に胸を張りました。
「われわれはCOPで初の変革をとげることができた。私はマジリスが会議に転換点をもたらしたと思う。われわれはこれまでの立場を離れ、こころからの話し合いを行うことによって、協働の精神のもとに新たなつながりを得たのである」
このマジリスって何だ?
会議を取材していた日本の記者は誰も知らなかったでしょう。
マジリスは、アラブ社会では集まりの場所、人が集まることをさします。アラブ人の家にはマジリスと呼ばれる部屋があり、客人をここに迎え入れる。絨毯が敷かれクッションがあり、お茶をいれ香をたくこともある。ひとたびマジリスに入ったら、人は時間をかけ、座りこんで話をすることになっています。
形より大事なのは役割でしょう。
紛争解決の場としてのマジリスは、誰もが対等の立場でものをいうことができる。多数決で決めることはせず、結論は首長や宗教者など、地域の指導者が言い渡します。今回、UAEのジャベル議長は、200近くの国の代表をマジリスの精神でまとめ、午前4時、5時まで車座になって関係者と話しつづけたとか。そうして「脱却」を盛りこむことができました。
そう聞くと、マジリス、やってみようかという声があがるかもしれない。
コラムニストのコイさんは、マジリスは民主主義に代わるものではないが、補完する有用なしくみだといいます。
ぼくは、これはアイヌの人びとの紛争解決法とおなじだと思いました。時間をかけてみんなが発言し、多数決ではない形で物事を決める。地球上の多くの地域で、古来から伝わってきた文化です。それがCOPという国連の会議にまで登場したことに驚くとともに、「有用」を超えた活用のしかたがあるのではないか、その可能性をもっと考えるべきだろうと思いました。
国という枠組みには収まりきらない、大事な人間社会の可能性がそこにあるからです。
(2023年12月22日)