高齢者のあいだで、ロボットの犬や猫などの「ロボペット」が人気です。
高齢者を対象にロボペットを配布する自治体まで出てきました。大胆なサービスだと感心します(Robotic pets are bringing some older people real comfort. December 9, 2024. The Washington Post)。
ロボットの犬や猫は、高齢者、とくに認知症の人に適しているようです。
ニューヨーク州のアルフレッド・ジャービスさん(92歳)は、アルツハイマー症で不安になり、長年つれそった妻に暴言を吐くようになりました。姪がロボットの猫を与えたところ、たちまちおとなしくなった。「こわがらなくてもいい、大丈夫だよ」と猫なで声でロボットに話しかけ、すっかり以前飼っていた猫だと思いこんでいます。
ジャービスさんのような人は、年齢とともにペットと暮らすことがむずかしくなる。ペットの面倒を見られなくなるし、施設に入るときはペットを連れてはいけません。ひとり暮らしで孤立した人にとって、ロボペットは貴重な存在になります。
認知症で不安な人には鎮静剤が必要なこともあるけれど、ロボペットがいると鎮静剤が少なくてすむという神経学者もいます。
認知症者をニセモノでだましていいのかという議論もあったけれど、もうそんな時代ではないとノースカロライナ大学のS・ツィンマーマン教授はいいます。
「ロボットの犬を、以前飼っていた犬だと思う。それをまちがいだと訂正するより、生きていたころのペットのよき思い出にひたらせてあげるほうがずっといい」
認知症であろうがなかろうが、ロボペットは多くの高齢者に安らぎをもたらします。ニセモノとわかっていても愛着を感じ、安心しする人が増えました。
ロボペットを積極的に取り入れているのが、ニューヨーク州です。
NYSOFAと呼ばれる州の高齢者支援部門は、2018年からこれまでに州内のお年寄りに3万体のロボペットを贈ってきました。担当者はいいます。
「おもちゃじゃなく、コンパニオンなんです」
自分が死んだら、ロボペットも棺に入れてくれという人も出てきました。
この話のポイントは、だますってどういうことか、でしょう。
認知症の人も、ロボットはやはりロボットだと気づくことがあるんじゃないか。それでもいいと受け止めているのかもしれない。認知力のおとろえをなげき悲しむより、むしろ楽しみに変える。そんなことが起きているとしたら、誰が誰をだましているのかという話にもなります。
夢とうつつを行ったり来たり、なら、なかなか深遠な話でもある。
(2024年12月27日)