町中の不安定な精神障害者とどう向き合えばいいか。
もしも精神障害者が興奮状態で話ができないとか、叫んだりせわしなく動き回ってたとしたら、多くの人が警察を呼ぶでしょう。そして病院や施設に閉じ込める。それで一見問題は解決したかに見えるけれど、じつはそうではない。問題は隠されただけで、何も解決されてはいない。
どうすればいいのか。ぼくにとってきわめて興味深い議論がアメリカで起きています(New York City to Involuntarily Remove Mentally Ill People From Streets. Nov. 29, 2022, The New York Times)。
議論の発端は、ニューヨーク市のエリック・アダムズ市長が、路上で暮らす重度の精神障害者を「非自発的に入院させる」と発表したことでした。要するに強制的な病院への収容です。
背景には、ことし1月に起きた殺人事件がありました。統合失調症の男がなんの関係もないひとりの女性をいきなり地下鉄のホームから線路に突き落とし、死亡させた。男は病院や刑務所に何十年も出たり入ったりをくり返しているホームレスでした。
増える一方の地下鉄の犯罪に対処するのは自分の責務だと、アダムス市長はいいます。
「分析でわかるのは、精神疾患を持つ人びとが問題を悪化させているということです」
ニューヨークには数千人のホームレスがいて、多くが精神障害者だといわれます。
「街角にずっと立ちつづける男、見えない敵にシャドウボクシングをくり返している男、地下鉄に座ったまま動けなくなっている男、そのほか何百人も緊急に治療が必要な人がいるのに、多くが治療を拒んでいる」
これまでは、自傷他害のおそれがないかぎり、精神障害者は強制的に入院させることができませんでした。この方針を変え、ホームレスの精神障害者の場合、他人に害をおよぼすおそれがなくても強制的に入院させる、それは「精神病を患う人を助ける」ことになるというのが市長の言い分でした。
まことにもっともに聞こえます。
精神障害のホームレスを病院に収容して治療を受けさせる。そうすれば本人の病気はよくなり、町は安全になるだろう。何が問題なのかと、ほとんどの人は思うでしょう。
ちがうのです。
市長の方針に対し、現場からはただちに疑問と批判が噴出しました。精神障害はなくそうとしてなくなるものではなく、つねに姿かたちを変えて現れる。その姿かたちは、ぼくらの、この社会を映す鏡でもあるのではないか。「精神障害をなくそう」ではなく、「ぼくら自身を変えよう」が議論のキモであるはずだ。そんなことを思わせる議論が、いままたニューヨークでくり返されています。その動きを明日以降、もう少し追ってみます。
(2022年12月6日)