変わる観光公害

 観光公害が世界中で問題です。
「観光客ゴーホーム」とデモがあったスペインのバルセロナで、観光客が水鉄砲で襲われた事件をこのブログに書きました(7月11日)。こんどはニューヨーク・タイムズが、やはりバルセロナを書いている。いまの観光公害はかなりの部分がネットの、それもSNSなどが前面に出た新時代の産物と思い知らされます(‘The Demand Is Unstoppable’: Can Barcelona Survive Mass Tourism? Aug. 20, 2024. The New York Times)。

 たとえばバルセロナ市郊外のカルメル要塞。
 むかしから静かな地元民の憩いの場だったのが、SNS、インスタグラムとティクトクの普及で喧騒の場に変わりました。この「穴場」で夕日を背にセルフィーを撮ろうと、観光客が押しよせてきたからです。柵を乗り越えて入りこんだり、酒を飲んで騒ぎ、路地をトイレ代わりにするものもいる。地元はほとほと迷惑らしい(日本の富士市でも、インスタ映えする写真を撮りに観光客が押しかけ問題になりましたが)。

カルメル要塞(バルセロナ)
(Credit: OK – Apartment, Openverse)

 それより規模の大きいのがエアビーアンドビー(Airbnb)、“ネット民宿”です。
 バルセロナの一般民家がこのしくみで観光客にレンタルされ、民宿になる。厳しい規制にもかかわらず、違法な貸し借りがあとをたちません。市は調査員を使って違法レンタルを摘発しているけれど、焼け石に水だとか。
 観光客が住民を追い出した形となり、家賃は上がり、バルセロナの住宅事情は悪化している。

 格安航空会社が就航し、クルーズ船が寄港し、大波のように観光客がやってくる。彼らはネットで有名な観光スポットに集中します。
 中心部のバス路線のひとつは観光客だらけで地元民が乗れなくなり、グーグルマップからこの路線を削除してようやく市民が乗れるようになったとか。

ボケリア市場 (Credit: Librarygroover, Openverse)

 観光は、バルセロナの文化を変えています。
 有名なバルセロナの生鮮食品市場「ボケリア」では、多くの商店が新鮮な食材よりも観光客相手の惣菜、テークアウトを売るようになった。生魚ではなく魚のフライ、生肉ではなく肉入りの揚げパン。商売にならないと移転する店も出てきました。
 新しい市場に移転した店のオーナーは、これまで通り新鮮な食材を地元民のためにそろえ、「味のわかる観光客」が来たら相手をしたいといっている。

 バルセロナをただ消費するためにやってくる観光客と、立場をわきまえ文化を味わいたいとやってくる観光客と。その差別化、階層化が進むということでしょうか。おそらくほかの都市でも、また日本でも、おなじことが起きています。
(2024年8月22日)