学歴を消すAI

 AIが普及したら、多くの失業者が出るだろう。
 こんな予測が出ています。いまある仕事の4分の1はいずれAIがするようになる、世界で3億人が失業するだろうと、ことし3月のゴールドマン・サックス社のレポートはいっているそうです。
 そういう時代に失業しないためにはどんな仕事を選べばいいのか。専門家の視点に感心しました(Amid the talk of artificial intelligence replacing workers, experts say there are some jobs computers aren’t taking – at least for a while. 9th May 2023. BBC)。

 AIとロボットにくわしい未来学者のマーチン・フォードさんは、近い将来にかぎっていうなら、AIに侵食されずに残る仕事の分野は3つあるといいます。
 第1はほんとうに創造的な分野です。
「科学、医学、法律など。新しい法的戦略やビジネス思考を要する仕事。これは人間がすることになるだろう」
 これまで誰も考えたことがないことを考える。そういう分野の仕事は、まだしばらくは人間の担当です。意外なのは、ここにグラフィック・デザインなどは含まれないことでした。そういうのはAIがもっとも得意とする仕事だからということのようです。

 第2は、高度な人間関係にかかわる分野。看護師、ビジネスコンサルタント、調査報道ジャーナリストなど。
「人間に対する深い理解がないと務まらない。これは当分AIにはできない仕事です」
 おもしろいと思ったのは第3の分野でした。
“トレード・ジョブ”のような分野だというのですね。トレード・ジョブ(trade job)は、日本語だと修理屋とか便利屋に近い概念、これが、AIには不得手です。
「予測できない環境でも動き回り、機敏に問題を解決しなければならない。電気工事や水回りの修理、溶接など。つねに新しい状況に置かれるので自動化できない仕事です」
 水道がこわれたから来てくれといわれて、はいはいとすぐに直すロボットは当分現れない。逆にいえば、トレード・ジョブをしていれば当分失業はしないということでしょう。

 さらに注目すべきは、これからAIに駆逐されるのは学歴のないブルーカラーよりむしろ高学歴のホワイトカラーという指摘でした。
 オフィスワークだの業務報告なんてものは、どんどんAIがしてしまう。逆に溶接工やウーバーの配送といった、その場で機敏に対処しなければならない仕事はAIにはできない、だから人間がする。必要なのは学歴じゃないというわけです。なるほど。一流大学を出て一流企業を目ざすような人生が色あせるなら、AIの登場も悪いことばかりじゃない気がします。
(2023年5月10日)