地球にパラソルをさしてやろう。
こんなことをまじめに考えている科学者たちがいます。宇宙空間に巨大な傘のような膜を張り、それで地球に降り注ぐ太陽光をさえぎる。もちろん温暖化対策のために。SFのおとぎ話だろ、といいたくなるけれど本人たちは真剣です(Could a Giant Parasol in Outer Space Help Solve the Climate Crisis? Feb. 2, 2024. The New York Times)。
宇宙空間に展開された巨大なパラソル。
それで地球に注がれる太陽光の2%足らずをカットすれば、地球は2年後には1.5度冷える計算だといいます。地球と太陽のあいだで、月までの距離の4倍近い150万キロの遠方に展開されるパラソルの面積は260万平方キロ、アルゼンチンくらいの広さで、重さ250万トンにもなります。
そんなのできるわけないと思うけれど、イスラエルの物理学者、ヨラム・ローゼン教授は実証研究にかかりたいといっている。テストケースとして、まず100平方フィート(約10平方メートル)の小さなパラソルを打ち上げる。その費用は1千万から2千万ドル。
「実行可能な解決策がある。あとはこれを大きくすればいいだけだと、世界に示したい」
理論的に不可能な話ではないらしい。地球から150万キロというのは、太陽と地球の引力が釣りあうラグランジュ点と呼ばれるところで、そこに置かれたパラソルは安定して地球に影を落とすことができる。
天文学的な費用がかかるけれど、世界の軍事費の10%をそのためにあてればいい。宇宙空間に衛星や資材を打ち上げる費用はどんどん安くなっている。かつて夢物語だったアイデアが実現されるのは、電気自動車のテスラがいい見本ではないか。とまあ、支援者はプラス材料をあれこれあげています。
最大の追い風は、気候危機が待ったなしだということでしょう。
国連は地球の気温上昇を1.5度に抑えるべきだという。でもすでに1.2度まで加熱されてしまった。干ばつや熱波、洪水や山火事は激しくなる一方で、いますぐ化石燃料をやめても気候危機は終わらない。おまけに気候危機を否定する人たちもいて、そういう人たちがアメリカで近く政権を握るかもしれない。
こんなせっぱつまった地球で人類が生き残るためには、宇宙パラソルを真剣に考えなければならないとローゼン教授はいいます。また宇宙パラソルだけでなく、太陽光をさえぎる「宇宙スモッグ」や「宇宙雲」のようなアイデアを提唱する天文学者、物理学者も、米欧のあちこちに出現しているといいます。
スケールが大きすぎて理解できません。でも、理解できなくても関心は持ちつづけたい。そういうとき、宇宙パラソルは格好の話題じゃないでしょうか。
(2024年2月14日)