ミャンマーでは、忘れられた戦争がつづいている。
その戦争を思い出そうと、BBCの取材班がミャンマー奥地に入りました。東部のカレンニ州から北部のシャン州まで、密林のなかを移動し1か月に及ぶ現地取材です。おおざっぱにいって戦況は半年前とさして変わらない。しかし1年前のような停滞感もない。希望をもたらしているのは若者たちの息吹です(Armies of young insurgents are changing the course of a forgotten war. By Quentin Sommerville. May 21, 2024. BBC)。
現地取材の一番の強みは、一次情報です。
現地に立ったソマービル記者は、反政府武装勢力のなかでも主要部隊のひとつ、KNDF(カレンニ族防衛軍)の戦闘員、22歳のナム・リーさんのことばを伝えています。
「犬ども(ミャンマー軍事政権)は不正義、違法権力だ。われわれ若者はあいつらと縁を切った」
リーさんはFCバルセロナ、スペインの有名サッカーチームのTシャツを着ている。防弾チョッキはない。KNDFの兵士は誰も防弾チョッキを着ない。そんなものを買う金がないから。当然のようにBBCスタッフも着ない。
現場のディテール、一次情報から、ぼくらは忘れられた戦争のいまを推測します。
前線の緊迫した情報もあります。
BBCは、戦闘直後のある村落を取材しました。反政府側に27名もの犠牲が出る激しい戦闘だった。野戦病院で重症を負った兵士が苦痛にうめくのを見て、若い女性医師はいいます。大丈夫、隣国タイに搬送すれば助かる。でも、どうやって密林のなかを運ぶのだろう。
一方、北部シャン州では、反政府勢力が100名規模の政府軍部隊を攻撃し戦果をあげています。多数を殺害し、生き残った政府軍兵士57人を捕虜にした。でも弾薬がつき、それ以上攻撃をつづけることができなかった。
KNDFのマウイ・ポタイク副司令官はいいます。
「戦略は変わっている。すべての攻撃がいまや連携して行われるようになった」
1年前までバラバラに戦っていた各地の少数民族、それにクーデーターで首都を追われた民主勢力が連携するようになった。志願する若者兵士にはことかかないけれど、武器弾薬は乏しく、決定的な攻勢には出られない。
この戦争を忘れていた人はいうでしょう。で、結局どうなの、と。ミャンマー軍事政権は勝ってるのか負けてるのか、そこはっきりさせてよ。でもBBCは、また3月に現地に入ったニューヨーク・タイムズも、そこをはっきりさせたりはしません。もどかしいほどに。
現場に立ち、取材できたかぎりの一次情報を伝える。情報と判断(価値判断)を混同しない。そのたたずまいに、メディアとしての底力を感じます。
(2024年5月23日)