期待値は上向きでも

 アルツハイマー病の画期的な治療がはじまって、1年近くになります。
 いまのところ大きな事故もなく、医師も患者も新しい治療法に期待を高めているようです。ぼくも発病の可能性が高いので、ニュースに注目しました(A Drug to Slow Alzheimer’s Is Finally Available. How Are Patients Faring? June 10, 2024. The New York Times)。

 治療の中心はレカネマブと呼ばれる新薬です。商品名レキンビ。
 認知症のなかでも大きな割合を占めるアルツハイマー病は、脳のなかにアミロイドというタンパクが増え、脳細胞が死滅して進行する。レキンビはアミロイドを阻止し、アルツハイマー病の進行を遅らせる働きがあります。これまで認知症には何も治療法がなかったので、レキンビには唯一の対処法として多大な期待が寄せられました。去年7月、アメリカで認可され臨床応用がはじまっています。

 ニューヨーク・タイムズはメイヨー・クリニック、マサチューセッツ総合病院、カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)病院という、アメリカの代表的な3施設での進行具合を取材しました。

 そこでわかったのは、レキンビは対象患者の20%以下にしか投与されていないことです。
 レキンビは認知症のなかでもアルツハイマー型の早期段階か、その前段階が対象で、症状が進んだ患者は除外されます。脳浮腫や脳出血といった重篤な副作用があるので、対象者はほかの脳疾患がないこと、抗凝固剤(いわゆる血液をサラサラにする薬)を飲んでいないこと、脳出血を起こしやすい遺伝子を持っていないことなど、さまざまな条件があります。
 こうして厳しくし患者を選別したせいでしょうか、これまで重い副作用はなく、臨床応用は順調です。

 メイヨー・クリニックのロナルド・ピーターセン医師は、「心配されたほどの副作用は起きていない」といっている。
 マサチューセッツ総合病院のラミレス・ゴメス医師は、「アルツハイマー病は患者家族にたいへんな負担となるので、みんな意欲的だ。よろこんでこの治療法を受けている。医者の側にもあるていど楽観的な感覚が出てきたと思う」といっています。
 レケンビは2週間に1度の点滴を1年半つづけるので、臨床応用はまだ進行中です。結論めいたことはいえないけれど、患者が意欲的で担当医師が楽観的というのは、まずまずのすべりだしといえるでしょう。

 日本でも昨年末から投与がはじまっています。
 保険がきくけれど、2割負担で月6万6千円の医療費は高額です。それで認知症を半年ほど遅らせることができると聞くと、うーん、どうするか、考えます。
(2024年6月19日)