アルツハイマー病が、血液検査でかなりわかるようになった。
こんなニュースがあり、医学の進歩はいいことだと思ったら、どうもそんな単純な問題ではないらしい。アルツハイマー病の検査を一般人が気軽にできるようになったら、不安をあおるだけだというのです。医療情報は誰のものか、大きく複雑な問題が顔をのぞかせています(A Blood Test Accurately Diagnosed Alzheimer’s 90% of the Time, Study Finds. July 28, 2024. The New York Times)。
認知症の大部分を占めるアルツハイマー病を、血液検査で高精度に判定できるというのは、スウェーデン・ルンド大学のオスカー・ハンソン博士らのグループです。先週、アメリカで開かれた国際アルツハイマー病学会で発表しました。
ハンソン博士らは、アルツハイマー病の患者の脳内に蓄積されるタウというタンパクに注目します。このタンパクの特別な形、ptau-217というタイプがカギになるらしい。これを血液検査で調べると、アルツハイマー病を90%の精度で判定できるといいます。
アルツハイマー病はこれまで、一般医でもできる認知機能検査やCT画像の読み取りなどで初期の診断を行ってきました。それで病気が疑われると、高価な画像検査PETや、高度な技術を要する脊髄液を調べる方法で、タウタンパクやその前段階であるアミロイドと呼ばれるタンパクを検出し、確定していました。
ところが初期の診断は誤診が多い。ハンソン博士らによれば、記憶障害のある人のなかからアルツハイマー病を正確に選び出せるのは、一般医の場合61%でしかない。専門医でも73%です。それにくらべれば血液検査はずっとかんたんで精度は高い。じゃあこれからはみんな血液検査で、となりそうだけれど、専門家のなかには異論もあります。
アルツハイマー病は、発症までに20年かかることもある。いまは健康な人でも、検査すればアルツハイマー病になるとわかるかもしれない。ところがこの病気には治療法がない。検査しても不安になるだけではないか。検査をするかどうかは、医師が決めるべきことだろう。
現実には、早期のアルツハイマー病には治療薬が出てきたので、対策がないわけではない。けれどこの対策は高価で条件が厳しい。病気をいつ、どうやって検査し、どの段階で治療をはじめるか、治療の対象者でないとわかったらどうするか、考えることは多い。そのすべてに専門的な判断がいる。そんなことを患者に任せるべきではない。
おそらく多くの人が心配するのは、アルツハイマー病の血液検査が商品化され、誰もが気軽に飛びつく日がくることでしょう。それがいいのか悪いのか。医療専門家の知はどこまで尊重されるべきか。患者の知る権利はどこまで認められるべきか。議論は広がるでしょう。
ぼく自身は、コロナとおなじように、自分で検査できるといいがと思っています。
(2024年8月1日)