人工知能、AIは、悪用すればとんでもない混乱や衝突、悲劇を引き起こす。だからAIの「ゴッドファーザー」と呼ばれる開発者をはじめ、多くの科学者が公開書簡などでAI開発の一時中止や厳しい規制を求めていると、このブログで書きました(5月3日)。
でもAI開発は止まりません。グーグルやマイクロソフトなど、巨大テック企業によるAIの開発競争は激しくなるばかりです。
コラムニストのトーマス・フリードマンさんは、ぼくらは気候危機とAIというふたつのパンドラの箱を開けようとしていると警告しました(5月2日, NYT)。このふたつを放置したら人類の未来は絶望的です。
アメリカ議会がAI関係者の喚問を行うというから、多少は規制の方向が見えるかと思ったら実質的な成果はありませんでした。広島のG7もAIにかんするかぎりはお手上げだし、日本政府に至ってはよその国の議論を上目づかいに見ているだけでしょう。
もはや頼りになるのはEUだけ。
ぼくはそう思うようになりました。巨大テック企業相手に筋を通し、デジタル正義(のようなもの?)を考える意思と力があるのはヨーロッパ、EUだけではないか。おりしもロイター通信が11日、欧州議会の委員会がAIの包括的規制案を承認したと伝えていました。世界初の規制案は、AIによる公共の場での顔認識の禁止やAIの透明性を求めています。来月には欧州議会で採択されるでしょう。
そういう中身より、ぼくはもっとずっとミーハーにこの展開を見ています。
巨大テックに立ち向かう欧州のヒーロー、という構図で。
ヒーローとは、欧州委員会デジタル担当のマルグレーテ・べステアーさんです。
AIの中身はもちろん、それをどう使うか、どう規制するかはぼくのような素人の手にあまります。だけどきわめて重大な問題だから、考え方のポイントくらいは知りたい。そういうときに頼りになるのは、この人ではないかと思っています。
デンマークの政治家で、いまはEUでフォンデアライエン委員長に次ぐナンバー2です。これまでもグーグルやアマゾンを相手に厳しい規制を迫り、ときに莫大な制裁金を課すなど、剛腕を発揮してきました。あるいはそう見えました。
AI規制はこれからさまざまに議論されるでしょう。でもべステアーさんのいうことを聞いていれば大きくまちがえることはないんじゃないか。アメリカは巨大テックの地元だから、メディアや専門家の言説は極端に振れて遠近感が取りにくい。日本の言説はスルーするしかない。目を向けるべきはヨーロッパ。ぼくはそんなふうに思いながら、人類史の転換点になるであろうAI問題の推移をながめています。
(2023年5月19日)