AIによって人間社会のあり方は根源から変わるるでしょう。
よい方向にも悪い方向にも。
議論は百出しているけれど、ぼくが考えたいのはAIが何をもたらすかではなく、AIによってぼくらは何を失うかです。そんなつまらないことを考えるのはぼくだけだろうけれど、ぼくにとっては大事なことです。人間が人間であるって、どういうことかと考えてしまうので。南米のジャングルで生きのびた子どもたちの話を聞いて、あらためてそのことを考えました(How children survived 40 days in Colombian jungle. June 12, 2023. BBC)。
南米コロンビアのジャングルで飛行機が墜落し、生き残った子ども4人が40日後に救出された話は、日本でも注目度の高いニュースでした。
4人は13歳の少女を筆頭に、9歳、4歳、1歳のきょうだい。そんな子どもたちがジャングルでどうやって生きのびたのか、しかも40日間も。
疑問は、4人がコロンビア奥地の先住民「ウイトト」の子だったことで氷解します。ウイトトはジャングルの民、子どもたちは生まれたときから密林で育つ。豪雨のなかで仮小屋を作り、毒蛇を見分け、どんな木のどんな実を食べればいいかを知っている。4人きょうだいのリーダー、13歳のレスリーさんは、そういう先祖伝来の知識を身につけていただけでなく、1歳の子を守り育てる力まで持っていた。だから4人きょうだいは生きのびることができた。
4人救出のニュースに、コロンビアは国中が「奇跡だ」と湧いたようです。
子どもたちがどうやって生きのびたか、さまざまな情報が世界中のメディアに伝わりました。そのなかでBBCに登場した先住民、アレックス・ルフィーノさんのことばが印象的です。
「ジャングルはただ緑があるだけのところではない。そこは古代からの力があり、人びとがつながり、学び、互いに助け合うところなのだ」
子どもたちが生きのびたのは、キリスト教世界がいう「奇跡」ではない。飛行機事故で死んだ「母親の霊」が、子どもたちを守ったのだとルフィーノさんはいいます。そういう見方を、西欧社会にはわかろうとしない。
「これは世界が、人類が、この地上には異なる世界観があると知るいい機会ではないか」
ぼくらは「ジャングルの子どもたち」のたくましさに感動する。
でもウイトトの人びとは、たくましさは「古代からの力」から来ているという。そういう世界観あってのたくましさ、生きる力です。
別の報道にありました。これが西洋の子どもたちだったら生きのびることはできなかった。
古代からの力、人びとのつながり、母親の霊。そういうものをぼくらはことごとく失ってしまった。しかも失ったものが何かすらも、もうわからない。
AIがもたらすものより、AIによって失うもののことを、ぼくは思います。
(2023年6月14日)