熱中症の出方

 高齢者は熱中症に弱い。でも統合失調症の人もおなじく熱中症になりやすいと聞き、盲点を突かれた思いでした。いわれてみれば、たしかにそうです。ワシントン・ポストが長文のルポを掲載していました(HEAT’S HIDDEN RISK. Sept. 6, 2023. The Washington Post)。

 このルポは、去年7月、アリゾナ州フェニックスで起きたひとつの事件に焦点を当てています。スティーブン・グッドウィンさんという33歳の男性が、路上で倒れ熱中症で死んだ事件です。
 グッドウィンさんは統合失調症でした。
 ガールフレンドの家からいきなり外に出て行った。水とバッグ、2丁の拳銃を持って。気温は摂氏43度。2日間、炎天下を30キロ以上歩きつづけたところで倒れ、住民が救急車を呼んでいます。ところが銃を持っていたために警察がかけつけ、救急車に収容されるまでに時間がかかりました。表面温度が58度になるアスファルトの上に21分も横たわっていたグッドウィンさんは、病院で死亡が確認されています。

アリゾナ州フェニックス

 たまたま起きた事件ではないと、ポスト紙はいいます。
 フェニックスはアメリカでもっとも暑い町のひとつで、去年1年間に暑さで死んだ人は425人、市当局によればそのうちの4%が統合失調症でした。日本でもアメリカでも、統合失調症はおおむね人口の1%とされるから、これは統合失調症の人はそうでない人にくらべ熱中症になる確率が4倍も高いということかもしれない。双極性障害など、その他の重度の精神疾患を加えれば、その率はさらに高くなるでしょう。
 カナダのブリティッシュコロンビア州には、この数字が8%になるという調査結果もあるそうです。

 理由のひとつは薬でしょう。統合失調症の抗精神病薬は脱水症状やそれに近い状態をもたらし、熱中症の危険を増すといわれます。
 統合失調症の人は体温調節がうまくできないという指摘もある。薬のせいか、病気のせいか、脳中枢の体温調節機能が阻害されているかもしれない。
 さらに幻聴や妄想などの精神症状。グッドウィンさんも、「みんなが自分を殺そうとしている」という思いを強めていました。その恐怖心から、摂氏43度でもかまわず外に出て行ったのではないか。銃を2丁も持って。

 アメリカで起きていることは、日本でも起きている。
 一瞬そう思ったけれど、すぐ思い直しました。日本の統合失調症の当事者は、グッドウィンさんのように自由に暮らしてはいない。路上に出る自由もずっと少ないでしょう。熱中症の出方もちがった形を取るはずです。統計もないようだけれど。
(2023年9月8日)