何を不安とするか

 アメリカの若者たちは「精神の危機」にひんしていると書きました(5月25日)。自殺願望が、とくに十代の女性で3人に1人まで広がっていることを、小児科学会は「全国的な危機」ともいっている(5月23日)。ソーシャルメディアの影響が指摘されるけれど、もっと深いところに原因がありはしないか。そんなことを考えていたら、刺激的な論考に出会いました。
 子どもたちを守ろうとする社会が、逆に子どもたちの不安を強めているというのです。
 これはひとごとではない。日本でも、子どもを過剰に守る社会がネガティブな結果をもたらしているかもしれません(This Simple Fix Could Help Anxious Kids. By Camilo Ortiz and Lenore Skenazy. Sept. 4, 2023. The New York Times)。

 心理学者のカミロ・オーティズ博士と、活動家のレノール・スケナジーさんのオピニオンです。
 認知行動療法で子どもたちのカウンセリングをしてきたオーティズ博士は、この15年間、子どもたちの不安は強まる一方だといいます。またスケナジーさんは、レットグロー(Let Grow)というグループを作って子どもたちの自立を支援してきました。このふたりが、子どもはつねに監視し、親のいうとおりに動かせばいいと思っているいまの社会の風潮をじつになげかわしいとなげいています。
「ナマだろうが監視カメラ越しだろうが、おとながつねに見ているところでは子どもは育たない。あなたや私が育ったころ、迷子になったり自転車から転げ落ちたりしたらどうしたか、思い出してほしい。びっこを引いて家に帰ったり、誰かに助けを求めたり、どうにかしたものだ。子どもはそういう貴重な経験をしなければならない。それが不安をなくすことになる」

 ひとことでいえば、もっとひとりでやらせようということです。
 親の、おとなの監視を、見守りを、保護を離れてはじめて、子どもは自信と力をつける。
 オーティズ博士は、実際に不安障害と診断された9歳から14歳の子5人で、このアプローチを試しました。ひとりでバスに乗ること、ひとりでコンビニに行くこと、弟をお祭りに連れてゆくこと。そうした冒険の前後を調べると、「投薬よりもすぐれた効果を、認知行動療法より短期間で達成できた」といいます。もちろんたった5例で断定的なことはいえないから、いまはより大がかりな調査を計画しているそうです。

 不安は、なくそうとすればするほど、より深い不安を生むのではないか。
 それが、ここで感じたことでした。
 この考え方にはなじみがあります。問題をなくそうとすればするほど、より大きな問題につながるという、ぼくの知る精神障害者の捉え方に通じるからです。問題はなくすのではなく、そこから考え学ぶべきテーマにすることができる。不安もまた、ただなくすのではなく、つきつめ掘りさげ、ではどうするか考えるのが大事ではないか。そんなことを考えました。
(2023年9月7日)